前年度までの研究に引き続き,単分子原子分解能時間分解電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法によって結晶化過程における時間発展的な分子動態について追求した.塩化ナトリウム(NaCl)をモデル基質として選定し,前年度までに核形成過程における結晶核前駆体の構造揺らぎを明らかにし,学術論文や学会発表として報告した.最終年度は,結晶成長におけるイオン対の動的挙動を最新鋭のカメラ(K3-IS)によって解析した.3ミリ秒の高速撮影によって,結晶面上のイオン対ならびに集合したクラスターの動態を解析したところ柔軟な拡散挙動を見出した.モンテカルロ計算による検証によって,結晶面上のクラスターは結晶面との格子歪みによって付着することができず,結晶表面を浮いているように自由に拡散することが示唆された.このような結晶成長における過渡的な浮き島状の中間体を,Floating Islandと名付け,その学術的な意義について考察した.総じて,横,縦,そして電子線の照射方向である奥行き,さらには時間軸を含めた4次元的なクラスター挙動の詳細を精緻に解析することに成功した. 本申請研究では,SMART-EM研究における観察対象の拡充を目指した検討も同時に行った.NaClだけでなく他の陽イオン,陰イオンなど,他の物質群など多岐に渡る基質への展開可能性が明らかになった.取得した分子映像から,今まで窺い知ることができなかった微小世界における分子の振る舞いがわかりつつあり,科学現象に対する更なる知見の深化が期待できる.
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