研究課題/領域番号 |
20K15127
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
後藤 和泰 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (40821690)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 光電子材料 / 保護膜 |
研究実績の概要 |
本年度は、ナノ結晶シリコンをシリコン酸化膜中に複合化させた導電性保護膜の高性能化を目的として、水素プラズマ処理を用いてその保護性能をさらに向上させた。さらに,その向上要因を探るために水素深さ分布測定を実施した。 まず、酸素濃度の異なる水素化アモルファスシリコンオキサイド(a-SiOx:H)を3層構造として製膜し,その後の熱処理によりシリコンナノ結晶をシリコン酸化膜中に複合化させた導電性保護膜を作製した。その後,水素プラズマ処理を行った。その際,処理温度,処理時間,水素ガス流量,処理圧力,投入電力,電極間距離を変化させた。加えて、共鳴核反応法を用いて水素深さ分布を調査した。 水素プラズマ処理条件を最適化することにより,保護性能の指標であるimplied open-circuit voltage (iVoc)が処理前の696 mVから処理後には731 mVまで上昇した。また,接触抵抗率は,水素プラズマ処理前後で20 mOhm cm^2と同等の値を示した。水素深さ分布測定から,新規導電性保護膜層に水素が局在化することで保護性能が向上するという明快な相関関係が得られた。一方,保護性能が低下した水素プラズマ処理条件では,水素が注入されていない,もしくは注入されすぎることで保護性能が低下していることを示唆する結果が得られた。以上から,水素をナノ結晶近傍に適切に局在化させることでナノ結晶の未結合手が水素で終端され,電気導電性を損なうことなく保護性能が向上することが分かった。 今後は、得られた結果の解析を進めて水素密度などに構造特性と保護性能とを紐付けることで導電性保護膜の高性能化指針を提示する。さらに,保護膜の膜厚やナノ結晶サイズ,水素2段階処理などのパラメーターを拡張し,ベイズ最適化を援用することでさらなる効率的に高性能化を目指す。さらに,太陽電池への応用も行い,その高性能化を狙う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,順調に進展している。 本年度は,研究を進めている導電性保護膜への水素プラズマ処理の処理温度,処理時間,水素ガス流量,処理圧力,投入電力,電極間距離が保護性能と水素深さ分布に及ぼす影響を調査した。その結果,新規導電性保護膜中に水素が局在化すると,保護性能は向上するという結果が得られた。また,処理前後で電流-電圧特性に顕著な変化はなく,水素プラズマ処理による導電性能への悪影響が無いことが分かった。すなわち,良好な保護性能と導電性を両立する水素プラズマ処理条件が見いだされた。加えて,昨年度までに得られた結果がACS Applied Nano Materialsに採択された(R. Tsubata, K. Gotoh et al., ACS Appl. Nano Mater. 5 (2022) 1820-1827)。さらに,水素化処理の結果をまとめた論文の準備を進めており今年度中には投稿する予定である。上記理由から,本研究は当初の計画通りに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
水素プラズマ処理の処理温度,処理時間,投入電力,圧力,水素流量,電極間距離を調査することにより,接合特性が大きく向上し,その水素深さ分布も明らかにすることができた。しかし,水素濃度や水素との化学結合状態と表面保護性能や接触抵抗率の関係がまだ明らかになっていない。そのため,学内外の研究者と連携しつつ水素の分析,解析を進めて高性能化指針を得るとともにさらなる表面保護性能の向上を目指す。 さらに,ナノ結晶サイズや2段階水素化処理など,前工程と後工程の改善を試みる。その際,プロセスパラメーターが増大するため,ベイズ最適化を援用することで効率的に性能向上を行うことを目指す。 また、太陽電池構造とプロセスの改善に取り組み、導電性保護膜を用いた太陽電池の高性能化を目指す。光閉じ込め構造やパターン電極などの改善,および上述した水素プラズマを用いた水素化処理を導入することで短絡電流,曲性因子,開放電圧の向上を狙う。
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