本研究では、Si表面の保護とキャリアの輸送を両立する導電性保護膜として、Siナノ結晶/酸化シリコン複合膜の研究を行った。今年度は、その複合膜のSi表面保護性能を向上させるため、2段階の水素プラズマ処理(HPT)を実施した。HPTは、500 ℃の高温で行う第1HPTと300 ℃の低温で行う第2HPTの2段階からなる。第2HPTの条件として、交流電源の低い電力と短い処理時間を用いることで、n型多結晶Si(n+-poly-Si)のエッチング現象を抑制することができた。薄いn+-poly-Siを用いた場合では、Siナノ結晶/酸化シリコン複合膜の水素化が促進され、2段階HPT後にはSi表面保護性能の指標となるimplied-Voc(i-Voc)が、1段階HPT後のi-Vocの718 mVより高い723 mVまで向上した。一方、2段階のHPTでは、1.4倍大きな接触抵抗(ρc)が得られた。ρcの増大は、トラップアシストトンネリングの抑制と、水素とリンの複合体形成によるリンの不活性化に起因すると思われる。また、厚さ300 nmのn+-poly-Siコンタクトでは、i-Vocが744 mVと最も大きく、ρcが12 mΩ・cm2と最も小さかった。これは主にn+-poly-Si層がもたらす電界効果が強化されたためと思われる。厚いn+-poly-Siを採用することで、2段階のHPTの影響は軽減されており、n+-poly-Si層の高いドーピング濃度がアニール後も維持されたため、電界効果パッシベーションが強化されたことで水素化の寄与が認識できなくなったものと考えられる。 研究機関全体を通じて、Siナノ結晶をキャリアの輸送経路とする導電性保護膜のSiに対する表面保護性能は、従来の保護膜と比較して遜色のない値が得られており、ユニバーサルに機能する導電性保護膜の実現に資する重要な成果が得られた。
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