研究課題/領域番号 |
20K15128
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
稲田 雄飛 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 助教 (90770941)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ピレノファン / ナノカーボン / キャリア輸送層 / 有機半導体 / デバイス |
研究実績の概要 |
本研究では、有機半導体を発光層に用いた電流注入型レーザーデバイスの発光効率を改善するため、『ねじれ形ピレノファン』(以下、目標分子と記述)という分子を用いた新たな高移動度キャリア輸送層の開発を目指す。 本年度は、目標分子の合成に取り組んだ。実施計画で提案した目標分子の合成経路は、1,6-ジブロモピレンを出発原料とし、(I)メチル化、(II)ブロモ化、(III)四級アンモニウム化、(IV)アニオン交換、(V)Hoffman脱離・環化付加の5工程からなる。一段階目のメチル化では、まず当初の計画通りブチルリチウムを用いた金属-ハロゲン交換反応を介したヨウ化メチルとの反応を行った。ブチルリチウムの当量、反応温度、反応時間、乾燥剤の添加など種々の反応条件を検討した。しかし、出発物質の分解生成物であるピレンや帰属不可の副生成物が主な生成物であり、目的物であるジメチル化体は痕跡量しか検出されなかった。次に、トリメチルボロキシンを用いた鈴木-宮浦カップリングを行った。カラムクロマトグラフィーによる精製を経て、目的物であるジメチル化体を主生成物として得た(NMR収率:48%)。この反応条件で生成する副生成物は、カラムクロマトグラフィーで目的物と分離することが難しく、目的物の単離が課題である。 また、上記の合成実験と並行し、高いキャリア移動度をもつ分子の設計指針を探究する目的で量子化学計算を行った。ピレンのハロゲン置換体(塩素、フッ素、臭素)について、キャリア移動度を左右する要因の一つである再配向エネルギーを計算した。その結果、ハロゲン置換ピレンの再配向エネルギーは臭素置換体において特に小さくなる傾向があり、置換位置や置換数に依ることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は新型コロナウイルス感染症対策により、研究時間に大幅な制限が加えられた。緊急事態宣言に伴う研究室閉鎖に続き、大学での研究活動可能時間が短縮された。さらに、学生の登校可能日数が半分程度に制限され、当初の予定よりも実験量が大幅に減少した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の「研究実績の概要」で述べた通り、本年度は1段階目の工程に取り組み、鈴木-宮浦カップリングによって目的物の生成を確認した。目的物の単離が課題であり、今後、再沈殿による精製の他、反応中にボロキシンを段階的に添加することでホモカップリング体の生成に由来する副生成物の抑制を検討する。その上で、2段階目以降の工程に進み、ねじれ形ピレノファンの合成を目指す。さらに、これに分子配向制御技術を適用し、ねじれ形ピレノファンのキャリア輸送層としての有用性を明らかにする。
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