研究実績の概要 |
本研究では、有機半導体を発光層に用いた電流注入型レーザーデバイスの発光効率を改善するため、『ねじれ形ピレノファン』(以下、目標分子と記述)という分子を用いた新たな高移動度キャリア輸送層の開発を目指す。 実施計画で提案した目標分子の合成経路は、1,6-ジブロモピレン(DBP)を出発原料とし、(I)メチル化、(II)ブロモ化、(III)四級アンモニウム化、(IV)アニオン交換、(V)Hoffman脱離・環化付加の5工程からなる。前年度は一段階目のメチル化反応により、主生成物として1,6-ジメチルピレン(DMP)を得たが、若干量の副生成物が含まれていた。以下、本年度に実施した実験の概要について述べる。 まず、前年度に得たDBPを精製するため、カラムクロマトグラフィー、再結晶、再沈殿を試みた。しかし、目的物を単離することはできなかったため、若干量の副生成物を含んだまま、次の工程へと進めることにした。二段階目は、N-ブロモスクシンイミドを用い、DMPの二つのメチル基のうち片側のみをブロモ化する反応を試みた。薄層クロマトグラフィーでは反応の進行度を把握することが難しかった。NMR分析ではブロモ化の進行が示唆された。 また、上記の合成実験と並行し、昨年度に引き続いて、高いキャリア移動度をもつ分子の設計指針を探究するため、次の二つのピレン誘導体について、単結晶の作製とキャリア移動度の測定を試みた。DBPでは、溶液からの再結晶によって単結晶が作製できた。無置換ピレンと比べて溶解性を向上させつつ、同等のキャリア移動度が得られることが分かった。一方、1,3,6,8-テトラキス(4’-メトキシカルボニルフェニル)ピレンでは単結晶を得ることが難しく、多結晶膜の評価にとどまった。そのキャリア移動度を調べると、無置換ピレンと比べて3桁低い値を示した。
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