研究実績の概要 |
脂肪酸は溶媒環境によって二分子膜構造を構築することが知られており、機能性膜材料としての応用が期待されているが、その集合構造は不安定であり、構造制御のための基盤技術は確立されていない。一方で、ディスク状の二分子膜集合体「バイセル」は水中での分子の配向と濃縮に適した集合体であるため、バイオミメティクスを利用した機能性膜材料の前駆体として最近注目されている。本研究では色調変化を利用した次世代型センシング材としての用途が期待されているジアセチレン骨格を持った脂肪酸(diacetylene, DA)分子の集合形態制御に挑戦し、DAバイセルを用いた新規な機能性膜材料の調製を目指す。そのため本研究は、①DA分子の分散・集合挙動の観察、②DAバイセルの調製、③Poly-DA (PDA)フィルムの調製、の順に実施し、上記目的を達成するための基礎的知見を集積しており、DA分子として10,12-tricosadiynoic acidから成る集合体を用い、水中でのDA二分子膜集合体の構築条件を検討している。 まず、得られた分子集合体の集合状態を評価する手法として、蛍光プローブLaurdanを用いたパッキング密度解析法を確立した。不飽和脂肪酸をモデル分子として、二分子膜構造に焦点を当てた分子集合状態解析が可能となった。なお、本検討で使用した蛍光分光器は本助成金によって導入された。さらに、本成果は学術誌に掲載された(化学工学論文集, 47, 51-56, 2021)。次に、DA分子集合体の形態は動的光散乱法および透過型電子顕微鏡によって評価した。その結果、DA分子集合体の形態安定性に課題があることが判明した。また、検討③に先駆けて、PDA分子集合体の色調変化評価手法確立のため、色調変化速度から色調変化にかかるエネルギー障壁の評価を行った。その結果サポート分子の導入によるエネルギー障壁の変化が観察された。
|