研究課題/領域番号 |
20K15130
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
近藤 崇博 学習院大学, 理学部, 助教 (30760277)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 半導体ナノ粒子 / フォトルミネッセンス / 単一ナノ粒子分光 / 蛍光寿命 |
研究実績の概要 |
本研究は半導体ナノ粒子の特性が,粒子と吸着分子との間の光励起キャリア移動に及ぼす影響を,単一のナノ粒子レベルで明らかにすることを目的とする.具体的には,水分子または有機分子を半導体ナノ粒子に吸着させ,その時の単一の半導体ナノ粒子について高速時間分解フォトルミネッセンス(PL)計測による,PL発光寿命などの計測から光励起キャリア移動の評価を行う. 当初計画では初年度は高速時間分解PL測定装置の構築とデータ取得を目標とした.高速時間分解PL用の装置の構築は,フォトン検出器および時間相関単一光子計数モジュールのセットまで完了しているが,励起光源の選定に時間がかかり,次年度の購入となった.光源が納入され次第時間分解計測を開始する.また,単一ナノ粒子の発光を得るための顕微鏡であるが,今使用していた反射対物レンズを油浸対物レンズとすることで,顕微鏡像の分解能の向上およびPL発光強度の向上を達成した.本研究では半導体材料として,酸化亜鉛(ZnO)を対象としているが,これにより,従来装置では30-50 nm程度のサイズの粒子の検出が限界だったが,10 nm前後のナノ粒子まで検出が可能となった. その他,液相レーザーアブレーション法で作製したZnOについてPLスペクトル計測を行い,SEM像およびAFM像から粒子のサイズを計測した.励起子に由来するピークを観察すると量子サイズ効果に起因するとみられるピークシフトがみられた.また,これらの粒子のサイズは40 nm程度であった.ZnO粒子で量子サイズ効果が現れるのは10 nm 未満である.即ち,水中レーザーアブレーション法で作製したナノ粒子は多結晶体であり,その結晶子のサイズが各粒子により異なると予想される.このような情報は凝集した粒子群の平均的な特性評価では得られず,個々の粒子の評価をすることの重要性を示すものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では初年度は高速時間分解PL測定装置の構築とデータ取得を目標とした.現在,高速時間分解PL用の装置の構築は,フォトン検出器および時間相関単一光子計数モジュールのセットまで完了しているが,励起光源の選定に時間がかかり,次年度の購入となった.この点において進捗状況はやや遅れていると評価した.光源が納入され次第,時間分解計測を行っていく. また,水分子や有機分子などのガス分子導入系の構築を現在行っている.こちらも,時間分解計測の開始に合わせて構築を完了させる予定である. その他については,単一ナノ粒子の発光を得るための顕微鏡の反射対物レンズを油浸対物レンズとすることで,顕微鏡像の分解能の向上およびPL発光強度の向上を達成した.これにより,従来よりも小さな10 nm前後のナノ粒子まで検出が可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,高速時間分解PL計測装置の構築,およびガス導入系の構築を行いガス分子と半導体ナノ粒子とのキャリア移動について評価を行っていく.まずは,単一の半導体ナノ粒子について蛍光の減衰曲線を得ることを目指す. 以下,各項目に分けて今後の研究の遂行について述べる.(i) 半導体ナノ粒子-吸着分子間のキャリア移動について,PL発光寿命の評価からキャリア密度の時間変化などを明らかにする.(ii) 半導体ナノ粒子のバンド構造(バンドギャップエネルギー,欠陥準位など)を,PLスペクトルから明らかにする.(iii) (i)(ii)の項目を吸着分子種(水分子,有機分子),吸着量を変えて評価することで,ナノ粒子から吸着分子へのキャリア移動の挙動を明らかにする.(iv) 原子間力顕微鏡やX線回折によるナノ粒子のサイズ,形状,結晶性などを評価する.(v) 上記の実験結果と第一原理計算や既存の理論を利用した考察から,ナノ粒子特性とキャリア移動との相関を明らかにする 以上の項目の研究を通して,個々のナノ粒子の特性を明らかにすることで,より高い触媒能を有する半導体ナノ粒子の設計指針などを与える知見を得ていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,初年度に購入予定であった励起光源として使用するピコ秒発振LEDであるが,初年度の実験において励起光源の強度などの検討に時間を要し,初年度中に選定をすることができなかった.そのため次年度に購入をするため使用計画を変更いただきたい.
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