研究実績の概要 |
CsPbX3 (X = Cl, Br, I)ペロブスカイトナノ結晶(NCs)は、ハロゲン組成で蛍光波長を調整できる。先行研究で、励起光照射により光劣化したCsPbBr3 NCsが暗所で自己回復する現象を報告した。そこで本研究は、一部のBrをClおよびIに置換して光劣化と自己回復の挙動を調査した。 ホットインジェクション法でCsPbBr3 NCsの分散液を得た。ハロゲン組成変調はイオン交換法で行った。遠心分離と真空乾燥を行い、CsPb(Cl0.4Br0.6)3、CsPbBr3およびCsPb(Br0.7I0.3)3のペースト状NCs試料を得た。これを試料ホルダーに密封充填し、468 nmの青色LEDを72 h光照射した。その後、240 h暗所保管した。 X線回折法から、作製したNCsはいずれも立方晶であった。いずれの色も、青色光照射で黒色化した。その後の暗所保管中には元の色へ戻り、自己回復した。赤外吸収スペクトルの変化より、いずれのNCsも光照射中には表面配位子が光誘起脱離することで欠陥が生成し、その後の暗所保管中に再吸着したことが示唆された。表面欠陥の生成と減少が蛍光特性に影響したと推察される。また、蛍光量子収率(PLQY)の変化を比較した。CsPbBr3 NCs では、PLQYが光照射中に単調減少し、暗所保管中に単調増大した。Clを置換固溶すると、光照射中にPLQYが一時的に増大した後に減少した。暗所保管中には初期値以上まで回復した。これはClの高い電気陰性度に起因し、光照射中の表面配位子の吸着状態の最適化(光活性化)による影響が強く現れたと考えられる。一方、Iを置換固溶すると、光照射中にPLQYは単調減少した。しかし、暗所保管中の自己回復の程度はわずかであった。Iの置換固溶で立方晶としての安定性が低下し、非発光性の直方相への転移による不可逆な劣化が起こった可能性がある。
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