研究課題
2020年度は、まず測定対象となるカーボンナノチューブの架橋構造の自在構築に向けて、原子配列が明確な単一のナノチューブをその表面を清浄に維持したまま高い位置精度で溝に架橋させる技術を試みた。カーボンナノチューブの熱伝導を工学的応用から考えたとき、無数のナノチューブが集まり自立した膜などを形成したものの物性が測定されることが多いが、これは1本のナノチューブが持つ固有の物性とは大きな乖離がある。その要因を正確に理解するには、界面における熱抵抗やナノチューブ同士が接することによる散乱の影響を独立に評価する必要がある。2020年度前半は、前者の評価に向けて界面の効果を精度よく抽出できる構造を作製するための操作手法を実現した。つまり昇華性の分子結晶を媒介材料として単一のナノチューブを拾い上げ転写するという工程を考案し、そして拾い上げた1本のナノチューブからの蛍光発光をその場観測し、精度よく位置制御するための光学系を構築した。これにより原子幾何構造が一意に定まったカーボンナノチューブを、その蛍光発光が全く損なわれないよう清浄に保ちながらサブミクロンの精度で溝に架橋させたり、任意の平坦基板に配置したりできるようになった。初期的実験として、2本の構造の定まったナノチューブから交差構造を形成し、ナノチューブ間の励起子輸送を観察した。この実験をフォノン輸送へと展開することが本研究の目指すところである。また当初は顕微蛍光分光によるナノチューブ温度分布計測を予定していたものの、異動による研究環境の変化があり、別の手法を採用することにした。2020年度後半は、1本のカーボンナノチューブから光吸収・散乱スペクトル、そしてイメージングを行う光学系をゼロから構築し、次元度以降の計測に向けた準備を行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
今年度はカーボンナノチューブ単一界面での熱伝導の計測に向け、複数のナノチューブを組み合わせて任意の界面構造を形成する技術の構築を行った。昇華性の分子結晶を介するナノ材料ドライ転写手法を新たに考案し、さらにその場蛍光分光を行うことで、操作対象のナノチューブの原子配列を一意に決定したうえでその位置をサブミクロン精度で制御することが可能になった。その結果、2本のナノチューブを操作し交差構造を作製したほか、二次元原子層材料や微小光共振器などの多様なナノ構造体と複合構造を形成することができた。しかし、年度途中の異動に伴い、前所属機関で自作した顕微フォトルミネッセンス分光装置の使用機会が限られたため、新たに単一カーボンナノチューブのイメージングや分光を行う装置をゼロから構築することとなった。現状としては基板上の試料に限るものの、孤立カーボンナノチューブに対して高速・大面積の自動イメージングや1本を対象とした顕微分光を行える環境が新たに整備できた。
今後は顕微分光イメージングに基づく熱伝導計測を行うための、カーボンナノチューブジャンクションの架橋構造形成を第一に試みる。光学測定の空間分解能で信頼できる計測を行うために、長尺で孤立したカーボンナノチューブを合成する技術の改善やそういったナノチューブを拾い上げ精度よく配置する手法についても改良の余地がある。また異動に伴い実験環境が大幅に変わったことを受け、上記と並行して光電流計測による光吸収係数算出に代わる発熱量の見積もり手法を模索する。測定対象となるカーボンナノチューブの自己ジュール発熱による方法や2接点の温度差を与える手法などを検討している。熱伝導計測を行う環境を整えたのち、カーボンナノチューブジャンクションへのヘテロ構造化、例えばポリマーやDNAなどの有機物による被膜、さらには窒化ホウ素や二硫化モリブデンなどの他の原子像材料を化学気相成長させた被膜がナノチューブ内部や界面での熱伝導に与える影響を調べることで、マクロな材料としての特性が発現する原因の解明とその機能の制御可能性に向けた知見を獲得する。
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APL Photonics
巻: 6 ページ: 031302~031302
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ACS Photonics
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