2021年度は、基板上に掘られた溝を橋渡しするカーボンナノチューブの架橋構造の構築する技術を活用して、架橋ナノチューブに対してファンデルワールス界面を持つヘテロ構造を化学気相成長法によって成長させた。さらに得られた同軸ヘテロ構造の分光分析や電気伝導計測を行った。 ヘテロ構造の合成にあたり、試料の準備工程、電子顕微鏡による観察などに起因する汚染を最小限に抑えるため、独自のナノチューブ操作技術と単一ナノチューブの光学イメージング系を活用して、清浄な表面を持つ架橋カーボンナノチューブのイメージングを行い、ラマン散乱分光による構造分析を行った。続いてアンモニアボランを原料とし、窒化ホウ素とのファンデルワールス界面を持つヘテロ構造を合成し、再びラマン分光測定を行った。異種材料の熱膨張率の差に起因するひずみによるカーボンナノチューブ固有の振動モードのシフトが観察された。このシフトを加味したうえで、この振動モードの温度依存性を利用することにより、ヘテロ構造の温度分布、さらに熱伝導に関する計測が可能になる。 ただし、研究開始当初は前所属機関の蛍光分光によって温度計測を行うことを計画していたが、異動により活用できなくなったため、得られたファンデルワールスヘテロ構造における電気輸送に関する測定へと計画を変更した。このような原子層からなる半導体と絶縁体の同軸ヘテロ構造は、トランジスタ応用の可能性があるため、ゲートによる電気伝導特性の変調の可能性を検証した。トンネル電流により窒化ホウ素をゲート絶縁膜とした動作は得られなかったものの、既存のhigh-k材料と併せることで、良好なスイッチングが可能であることを確認した。独自の材料操作技術と光学イメージング技術により、ファンデルワールス結合によるナノ材料界面の電気・励起子の輸送についての測定を行うことができ、こういった技術と試料は熱輸送計測へと展開できる。
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