研究課題/領域番号 |
20K15141
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 大介 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (40869765)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 細胞骨格 / 無細胞タンパク質発現 / 細胞骨格 / 生体分子モーター / ナノテクノロジー |
研究実績の概要 |
生体システムは、多種多様なタンパク質によって機能している。その多くは、生体外でも機能することから、マイクロ・ナノデバイスの材料として期待されている。しかし、タンパク質は、熱やpH、乾燥などに弱く、デバイスを製造したとしても長期の保存や輸送ができない。一方、DNAは極めて安定であるとともに、タンパク質の情報記録分子である。本研究では、タンパク質をコードした遺伝子をもつDNAをガラス基板上にプリントすることで、デバイス構成に必要な情報を基板上にプレ-プログラミングし、長期保存することを可能にする。基板上でタンパク質を発現させ、タンパク質間の相互作用による自己集積を利用し、マイクロ・ナノデバイスの構築技術を確立する。 前年度では、コムギ胚芽由来の無細胞タンパク質発現キットを利用し、運動活性を有するGFP融合キネシンを合成することに成功した。本年度は、キネシンと相補的な細胞骨格である微小管を得るため、その構成材料であるαβチューブリンダイマーの合成を試みた。しかし、各チューブリンモノマーを合成することには成功したが、ダイマー状態のチューブリンを得ることができないことが明らかになった。そこで、同じ細胞骨格・生体分子モーターである、アクチン・ミオシンに材料を変更して、同様に無細胞タンパク質発現を行ったところ、双方とも目的タンパク質を合成することに成功した。 さらに、本年度はタンパク質の遺伝子をコードするDNAをガラス基板に修飾する方法を検討した。DNAは負電荷のポリマーであるため、正電荷のAPTESをガラスに修飾することで、DNAをガラス基板に固定することに成功した。さらに、ガラス基板に固定したDNAからも目的タンパク質を直接合成できることを明らかとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度では、主要材料を微小管・キネシン系からアクチン・ミオシン系へと変更したが、当初の計画から大きなズレは生じていない。本研究の主目的である、ガラスなどの無機物にDNAを印刷し、無細胞タンパク質発現系を用いて、タンパク質をIn situ合成する目的はほぼ達成された。具体的には、GFP融合ミオシンVIをコードするDNAおよびGFP特異的抗体を、正電荷処理したガラス基板表面に固定し、コムギ胚芽抽出液を添加することで、GFPミオシンVIを、ガラス基板上でIn situ合成した。ミオシンの合成は、ガラス基板表面のGFPの蛍光強度の増加から確認した。さらに、ウサギ骨格筋由来のアクチン繊維を加え、In vitro運動試験を行ったところ、アクチンの滑り運動が観察されたことから、In situ合成したGFPミオシンVIが運動性を有していることが明らかとなった。次年度は、蛍光タンパク質融合アクチンをミオシンVIと共発現することを試みる予定である。現在、予備実験ではアクチン単体での合成には成功しており、合成したアクチンが繊維状構造を形成することも確認が取れている。 以上より、2022年度現段階で、本研究のおよそ8割を達成することができたことから、想定よりも早い進捗であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度までに、材料である細胞骨格および生体分子モーターの合成に成功した。さらに、遺伝子テンプレートとなるDNAをガラス基板に固定する方法も確立し、タンパク質のIn situ合成にも成功した。今後は、残る最終課題である細胞骨格アクチンと生体分子モーターミオシンVIの共発現をガラス基板上で試みる。各タンパク質の発現量を調整する必要があると予想され、タンパク質合成のテンプレートとなるDNAの構成比を検討する予定である。同一システム内で各タンパク質が共発現され、アクチン繊維の運動発現を確認でき次第、本研究の総括を行う予定である。
|