研究課題/領域番号 |
20K15152
|
研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
塚越 拓哉 富山県立大学, 工学部, 講師 (90782920)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | MEMSセンサ / 表面プラズモン共鳴 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
本研究は、接着性細胞が細胞外マトリクスに接着する際のダイナミクスを詳細に計測し、細胞が接着・移動する際の焦点接着構造(Focal Adhesion;FA)の形成と接着力発生との時間的相関を明らかにすることを目的としている。この目的を果たすために、nNオーダーの微弱な力を高い時間分解能で計測可能なMEMS力センサと、金属表面における誘電率のごくわずかな変化を捉えることのできる表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;SPR)を併用し、接着性細胞が基質等に接着し移動する際の物理現象を計測・解析する。 これらの目的を果たすために、今年度は入射角を固定してSPRを検出するためのセットアップの構築および改良と、実験に使用する細胞の選定および培養を行った。まずはSPRセットアップの開発状況について説明する。入射角固定によるSPR検出は、計測の高速化が期待される一方で、検出感度とダイナミックレンジが両立しないという課題がある。そこで、入射光をコリメート状態とすることでSPRピーク幅を狭くして高感度検出を可能とし、入射光を集光状態とすることでSPRピーク幅を広くしてダイナミックレンジを広くすることを試みた。SPRピーク幅としては、コリメート状態で約1.5度、集光状態で約5度となった。これらの条件の下で濃度を変化させたイソプロパノールに対して計測を行い、コリメート状態のときには2~3%の分解能で濃度を推定でき、集光状態では濃度0~50%の範囲が問題なく計測できることを実証した。 細胞培養に関しては、ウシ平滑筋細胞およびマウス横紋筋細胞の培養を試み、いずれも問題なく培養できることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
入射角を走査する一般的なSPRに対して、入射角を固定したまま電流を計測し、誘電率や溶液濃度を推定するタイプのSPRシステムを考案・構築した。しかし、入射角固定のSPRでは検出感度とダイナミックレンジとがトレードオフの関係となるため、両者を両立させるべくコリメート状態を制御する方法を提案し、実際にシステムを構築するとともに、アルコール濃度が計測できることを確認した。コリメート状態を変化させることで、SPRピーク幅を約3倍にまで広げることができた。 今年度は実験に使用する細胞についても選定を進め、シャーレ内で問題なく培養できることを確認した。このうちウシ平滑筋細胞については以前にも使用したことがあり、シャーレだけでなく、ガラス、シリコン、金薄膜、有機膜などの上でも接着・増殖が可能であることを確認している。 上記の進捗のように、可動部のない構成でSPRが検出可能なシステムを構築し、実験に用いる細胞の培養条件を決めることができた。また、本研究の申請書に記したように、MEMSセンサ上に細胞を培養し、そのトラクション力を計測する技術をすでに保有している。本研究を遂行するにあたり、必要な技術を確立できたので、あとはそれらを組み合わせることに注力する。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度にあたる2022年度は、これまでに確立した入射角固定でのSPR検出、シリコンデバイス上での細胞培養、およびMEMS力センサによるトラクション力計測を同一のデバイス上で実施し、細胞接着時のダイナミクスを観察する。 その際の未知の要素として、細胞接着速度の均一性が挙げられる。通常のSPR検出では、コリメートしたレーザー光を所定の入射角で照射するが、そのスポット径は数百umのオーダーであり、数十から数百の細胞が含まれる。これらの細胞がほぼ同じように接着プロセスを経ればいいのだが、接着速度などに大きなばらつきがある場合、SPRは平均値を観察することになり、明確な接着過程が認識できない可能性がある。そこで、細胞の播種密度や入射レーザー光のスポット径などを変化させ、得られる電流信号の変化から個々の細胞の接着過程を推定する数学的モデルが有用と考えられる。 いずれにしても、まずは細胞接着時のSPR信号を検出し、トラクション力と比較することで、細胞接着と力発生との因果関係を調べる。その上で、得られたデータを分析し、上記の数学的モデルを加味した上で、細胞と基質との間で起きている力学的現象を説明する。本研究では、SPR信号の変化、すなわち、接着面近傍の物質密度(接着斑密度)が相関をもつことを前提としているが、この前提自体が仮説の域を出ていない。そこで本研究の結果をもとにして、接着部分で起きている生化学反応を推測するとともに、将来の課題としてそれを実証するためにはどのような実験等が有効であるかについても検討を行う。
|