電気的に調光が可能な電気光学フィルムは、プライバシー保護や屋外からの日差し調整の用途で、窓材としての応用が展開されている。特に高分子分散型液晶による調光素子は、優れた調光の速度や、ディスプレイで培われた高度な製造技術が転用できる等の観点から、今後の調光デバイスの市場を牽引する可能性を有する。しかし、一般の高分子は構造が破壊されると光学特性が著しく低下することに加え、従来の構造では光散乱・透明または着色・透明の切替に制限されている。本研究は、構造回復性のある液晶ゲルの形成技術を応用し、異なる光機能性を持つ液晶ゲル膜を厚さ方向に接合することで、散乱・着色・透明の3状態の切り替えを1素子で実現し、調光機能の更なる拡張を目的とした。 初年度は、液晶ゲルの形成時に、液晶単体と液晶ゲルが分離した構造が観察されたため、この分離構造の抑制する温度制御を検討した。ゾル状態から徐冷する過程で、液晶がネマチック相となる温度で保持することで、光学特性にばらつきのない面均一な液晶ゲルが形成することを確認した。 続く2年目(最終年度)は、初年度で調べた液晶ゲルの形成原理をもとにした液晶ゲルのヘテロ接合化のプロセスおよび、素子の柔軟化に向けた構造を検討した。作製するヘテロ接合構造の厚さ条件を決定するため、液晶ゲルが駆動する印加電界条件を探索した。その結果、0.8MV/mの電界が与えられたときに光散乱が最大化する傾向を示し、4MV/mの電界で十分な透明状態が得られることを示した。これらの条件から、ヘテロ接合化する液晶ゲルの厚さ条件を設定し、液晶ゲルの層間をフィルムで接合した素子を電圧駆動した結果、駆動電圧が高くなる問題はあるものの、3状態のスイッチング性を示した。加えて、伸長を可能とする素子構造の形成に着手し、支持基板からの剥離する手法によって、伸縮基板上に液晶セル構造を形成することに成功した。
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