今年度は、電極間にコバルトナノドットを形成した有機-無機ハイブリット型電界効果トランジスタ構造を作製し、スピン依存伝導現象の観測を目指した。PTCDA-ODAポリイミドをチャネル層に用いた素子では、ゲート電圧に起因したソースドレイン電流を観測したものの、電流値の経時変化が大きく、十分なキャップ層を設けても経時変化を低減することができなかった。そのため、磁場に対し変化する電流値の変化を観測することが困難であった。これはPTCDA-ODAポリイミドの合成において蒸着時の反応性が乏しく残存モノマーを多く含むなど薄膜の不均一性が大きいことが一因と考えられる。そこで、均一な薄膜の作製が容易なPMDA-ODAポリイミドをチャネル層に用いた電界効果トランジスタ構造を試作したところ、容易に測定可能な大きさのソース-ドレイン電流を観測し、室温において2-4%程度の磁気抵抗効果を観測することに成功した。また、Coナノドットを形成していない素子との比較や素子の抵抗値の温度依存性から、観測した磁気抵抗効果はCoナノドットとPMDA-ODAポリイミド界面における電子伝導に起因することが示唆された。トランジスタ構造におけるCoナノドットを形成したゲート絶縁層の絶縁性確保に課題があるものの、今後、ゲート電圧を印加した状態におけるスピン依存伝導現象を詳細に調べることにより、強磁性体に吸着した有機分子をチャネル層に用いた新たなデバイスの創出に繋がると期待される。
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