研究課題/領域番号 |
20K15158
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂本 祥哉 東京大学, 物性研究所, 助教 (50868114)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究課題はFe/MgOをベースとした薄膜に着目し、GaやAlなどの比較的軽い元素を導入することによって、磁気異方性やその電圧変調効率を向上させることを目的としている。 初年度である2020年度は基礎となるFe/MgO薄膜そのものに着目し研究を進めた。高エネルギー加速器研究所の放射光施設フォトンファクトリーで深さ分解X線磁気円二色性分光実験を行い、Feのスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントがMgO界面で顕著に増大していることを明らかにした。第一原理計算との比較から、Feの電子の界面における局在がこの増大をもたらすことを示した。この結果は、Fe/MgOをはじめとした物質界面で現れる現象の理解をさらに深めるものである。 次に、GaやAlを導入したFe3X(X: Ga, Al)エピタキシャル薄膜の成膜に取り組み、薄膜作製に成功した。特に0.5nm程度に超薄膜化したFe3Alを用いて磁気異方性やその電圧変調効率を評価した。この初期実験において磁気異方性等に増大はみられなかった。そこで磁気光学効果を用いた界面デッドレイヤーの詳細評価及びフォトンファクトリーでの深さ分解X線吸収実験を行った結果、Fe/MgO界面と比較してFe3Al/MgO界面には磁性が失われている界面デッドレイヤーがあることを見出した。この界面デッドレイヤーの存在により、当初予定した通りの結果が得られなかった可能性があるため、2021年度はこの点を改良した実験設計を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、Fe、Fe3Ga、 Fe3Al薄膜のエピタキシャル成長に成功した。最も基礎的なFe/MgO界面に対しては、放射光実験によって界面でFeがどのように振る舞うかを明らかにした。Fe3Al/MgO界面において予想よりもデッドレイヤーが大きいという課題があるものの、概ね予定通り研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
成膜に成功したFe3GaやFe3Alに対し、種々の物性評価を行い、磁気異方性やその電圧変調性能の向上の可能性を引き続き探索する。またVやCrといった元素を追加で導入することで、フェルミ準位の位置を調整する方法も検討する。必要であれば、初年度同様、放射光施設を活用し研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計上していた試料蒸着装置を購入することなく、Fe3GaやFe3Al薄膜の成膜に成功したため、昨年度は測定に必要な装置のみを購入した。また、実験旅費をはじめとした出張費用もコロナウイルスの感染拡大のため発生しなかった。次年度も、さらに詳細な物性測定のための測定装置に研究経費を使用する予定である。
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