研究課題/領域番号 |
20K15163
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
千葉 貴裕 福島工業高等専門学校, 一般教科, 講師 (90803297)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道トルク / トポロジカル物質 |
研究実績の概要 |
本年度は、磁性トポロジカル絶縁体(TI)表面におけるスピン軌道トルクおよび磁気異方性に関して研究を行った。TI は強いスピン軌道相互作用と時間反転対称性に起因して表面にギャップレスな金属状態をもつ物質である。その表面状態は波数空間においてヘリカルなスピン構造(スピン運動量ロッキング)を有している。したがって、TI 表面に電場を印加することでスピン運動量ロッキングによりスピン蓄積が誘起され(Rashba-Edelstein効果)、磁性TIでは自身の磁化に対してスピン軌道トルクを及ぼす。一方でスピン運動量ロッキングの性質は磁気異方性にも影響を及ぼすことが知られている。しかしながら、これまでの研究では、磁性TIの磁化反転においてスピン軌道トルクと磁気異方性は独立に扱われていて、特にその同時電圧制御に関する研究は皆無であった。そこで本研究では、磁性TI表面におけるスピン軌道トルクと磁気異方性に対する電界効果を理論的に解明することを目指した。 電子の低エネルギー(ディラック点近傍)における運動を記述する有効ハミルトニアンに基づき、まず磁性TI表面におけるスピン軌道トルクと磁気異方性エネルギーをモデル化した。その結果、スピン軌道トルクに対する電界効果が比較的小さい一方で、磁気異方性エネルギーは電圧により大きく変調できることを明らかにした。この結果に基づいて、磁化の運動を記述するランダウ‐リフシッツ‐ギルバート方程式を用いて磁性TIの磁化反転をシミュレーションしたところ、低温において従来の磁性体よりも一桁小さい電力で磁化反転できることがわかった。これにより磁性TI膜という単純な構造を基にした電圧制御磁気メモリ素子への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画においては、令和2年度は「一様な磁性体と導電体の二層膜における非相反スピン注入効果の解明」を目標としていた。「研究実績の概要」で述べた成果は、磁性体と導電体(トポロジカル絶縁体)の二層膜に対しても適応可能なものであり、その点も含めてPhysical Review Applied誌に論文として発表した。以上の点を踏まえて、本課題はおおむね当初の計画通りに進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は前年度に引き続き、トポロジカル絶縁体(TI)およびディラック半金属といったトポロジカル物質(電子系)における磁気輸送現象を扱う。その中でも特に波数空間でのスピン構造を有する表面・界面状態に注目し、電荷スピン輸送における非相反な性質を明らかにすることを目指す。 具体的なテーマとしては、TIと磁性絶縁体の二層膜におけるスピンポンピング効果が挙げられる。先行研究において、TI表面の電荷輸送は磁化の極性に対して非相反になることが実験的に示されており、これは逆に電子散乱を考慮することで非相反スピンポンピングが実現できることを示唆している。この非相反現象をより詳細に明らかにするため、界面での電子‐マグノン相互作用ハミルトニアンに基づいてマグノンの散乱時間を定式化し、スピンポンピングの非相反性を研究する。さらにゲート電圧の大きさや磁化のギルバート緩和定数等のパラメータを変化させて数値シミュレーションを行い、非相反性を利用してスピンポンピングを大きくするためのパラメータ領域を明らかにする。また、TI表面の類推からトポロジカルディラック半金属(TDS)において表面状態に起因した非相反電荷輸送現象を研究する。TDS表面の電子スピン構造はTI表面のそれよりも指向性が高いことからより大きな非相反効果が期待できる。TDSを記述する有効ハミルトニアンと量子ボルツマン輸送理論を用いて、TDS表面における磁場誘起非相反電荷輸送現象の機構解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、所属機関の研究費により旅費等をカバーすることができたため、当初の所要額の一部を次年度に使用することとした。
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