研究課題/領域番号 |
20K15164
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
軽部 皓介 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (00755431)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スキルミオン / アンチスキルミオン / 磁気異方性 / フラクタル磁区構造 / 単結晶合成 / 磁気力顕微鏡 / 小角中性子散乱 |
研究実績の概要 |
①(Fe,Ni)3P系の磁気異方性の組成変化とアンチスキルミオンの安定性の研究 スキルミオンと逆符号のトポロジカル数を持つアンチスキルミオンは、これまでにD2dまたはS4対称性を持つ磁性体で観測されているが、磁気相互作用とアンチスキルミオンの安定性の関係は明らかではなかった。我々はS4対称性の結晶構造を持つ(Fe,Ni)3Pのさまざまな組成の単結晶試料を合成し、磁化測定(および共同研究による強磁性共鳴)により、磁気異方性の組成変化を系統的に調べた。その結果、Fe3Pの強い容易面型の磁気異方性が、Ni置換で急速に弱まり、さらにPdを少量ドープすると磁気異方性が容易軸型に変化することが分かった。また、Rhをドープすると、磁気異方性の方向が温度変化することが分かった。共同研究によるローレンツ透過型電子顕微鏡により薄片試料の磁気構造を調べた結果、アンチスキルミオンの安定化には、容易軸型の磁気異方性エネルギーと反磁場エネルギーの適切なバランスが重要であることが分かった。これらの研究成果は、科学雑誌Advanced Materialsに掲載された。
②(Fe,Ni,Pd)3Pバルク単結晶におけるフラクタル磁区構造の研究 S4対称性の結晶構造を持つ(Fe0.63Ni0.30Pd0.07)3Pは、薄片試料においてアンチスキルミオンが観測されているが、バルク単結晶の表面付近では複雑に枝分かれしたフラクタル磁区構造が磁気力顕微鏡により観測されている。共同研究により小角中性子散乱測定を行った結果、[110]方向に裾を持つ異方的な散漫散乱パターンが観測された。散乱強度のq依存性は指数-3.1のべき乗則に従うことから、フラクタル次元が3に近い複雑な磁区構造がバルク内部に存在することが確かめられた。また、室温と低温で異なる磁場依存性が観測された。これらの研究成果は現在論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【研究計画3:新規室温スキルミオン物質の開拓】について、昨年度発見した新規アンチスキルミオン物質(Fe,Ni,Pd)3Pの組成変化を系統的に調べ、磁気異方性が組成で劇的に変化すること、アンチスキルミオンの安定性には容易軸型の磁気異方性と反磁場エネルギーのバランスが重要であることを明らかにした。また、バルク結晶におけるフラクタル磁区構造を小角中性子散乱を用いて詳細に調べ、フラクタル性の度合いや異方性を定量評価することに成功している。したがって、当初の計画以上の重要な研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
①【研究計画2:Co-Zn-Mn合金における創発輸送現象の探求】に関して、Co-Zn-Mn合金では残念ながら明確なトポロジカルホール効果は観測できなかった。これはスキルミオンのサイズが大きいため、トポロジカルホール成分が小さいからである。一方、歪んだ三角格子を持つフラストレート系物質GdCu2において、これまでの測定により、巨大なホール伝導率および磁気相転移に伴う符号変化が観測されており、Auをドープすると急激に抑えられることが分かっている。今後さらに測定・解析を進めて論文にまとめる。
②【研究計画3:新規室温スキルミオン物質の開拓】について、これまでの(Fe,Ni,Pd)3P系の研究結果をヒントに、空間反転対称性の破れ・磁気異方性・反磁場エネルギーをうまく組み合わせて新たなトポロジカル磁気構造を示す物質を開拓する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、学会のオンライン化により出張費がかからなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、請求した助成金と合わせて、試料合成用の試薬や消耗品、物性測定用の部品など研究遂行に必要な物品を購入する予定である。
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備考 |
理研プレスリリース
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