研究課題/領域番号 |
20K15174
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
畑中 修平 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 技術職員 (30838503)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 透過型電子顕微鏡 / コヒーレンス |
研究実績の概要 |
本研究は、超高速電子顕微鏡の電子源として使用されるフォトカソードを用いた電子ビームのコヒーレンスの定量評価および、位相イメージングの実現を目指して研究を行っている。本年度は、フォトカソードとの比較対象として、従来から透過電子顕微鏡の電子源として使用されている熱電子銃および電界放出電子銃を用いて、電子ビームの空間コヒーレンスを定量評価した。 定量評価の手法には、単孔絞りのFraunhofer回折であるAiryパターンの強度分布を解析する手法を用いた。Airyパターンを得るには、電子ビームのコヒーレンス長と絞りの直径が同程度以上である必要がある。コヒーレンス長の短い熱電子ビームからAiryパターンを得るため、集束イオンビーム装置を用いて直径約340 nmの絞りを作製した。この絞りを透過電子顕微鏡の制限視野絞り位置に挿入することで、試料面では対物レンズの倍率だけ小さくなり実効径約10 nmの絞りとなる。六ホウ化ランタン熱電子銃を備えた透過電子顕微鏡の電子回折モードで、この絞りからAiryパターンを得ることに成功した。Airyパターンの強度分布を、部分干渉性ボケ関数、検出器の点拡がり関数およびレンズ収差を考慮して解析した。この部分干渉性ボケ関数からvan Cittert Zernikeの定理に基づいて、コヒーレンス長を決定した。また異なる電子銃のコヒーレンスを比較するため、同様の手法で冷陰極電界放出型電子銃を備えた透過電子顕微鏡でもコヒーレンスの評価を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初予定していた熱電子ビームを用いたコヒーレンスの定量評価については達成した。この成果については論文の執筆を進めている。一方、光電子ビームのコヒーレンス測定については、異なる電子銃との比較指標がないため計画を変更し比較指標を検討することとした。これは、コヒーレンスが電子源の性質だけでなく透過電子顕微鏡のレンズ系にも依存し、単純なコヒーレンス長の比較は電子銃の性質の比較に相当しないためである。インコヒーレントな電子源として従来から用いられている、熱電子銃と冷陰極電界放出方電子銃に対してコヒーレンスの測定を実施し、比較指標を検討している。 比較指標として電子銃の性質で決まりかつ保存量である輝度の計測について研究を進めた。Airyパターンの測定に基づいて輝度を正確に計算できるかを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
まず熱電子ビームのコヒーレンス測定の結果を論文にまとめ海外の論文誌に出版する。さらに異なる電子銃からのビームを比較するため、透過電子顕微鏡のレンズ系に依存しない比較指標の理論的検討を進める。熱電子銃と電界放出電子銃を用いたAiryパターンからそれぞれの輝度を算出することで、電子銃の定量比較を実現し、結果をまとめる。 並行してフォトカソードを用いて光電子ビームのコヒーレンス測定の準備を進め、部分コヒーレント電子源であるフォトカソードとインコヒーレント電子源の違いがビームのコヒーレンスに及ぼす影響を研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
光電子ビームのコヒーレンス測定の研究計画を変更したため、予算の使用計画を変更した。今後の実験計画に対して、次年度使用分もあわせて必要な実験装置等を適切に購入し、研究を進めていく。
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