本研究は、分子チェーンの曲がり/変形と電気伝導特性との相関計測を目標に、1ピコメートル(1兆分の1メートル)の熱振動振幅で動作するAFM法を確立を目指す。 2021年度までは熱振動振幅で動作するAFMの構築に取り組んだ。その結果、AFM探針と導電性試料との間に働く静電気力を計測し、斥力と比較して計測難度が高い引力計測でも1ピコメートルの超微小振幅で計測できることを実証した。 2022年度は、熱振動AFMを用いた曲がりと電気伝導特性の相関計測の試料として有望なグラフェンチェーンの作製に取り組んだ。グラフェンチェーンの材料には、ベンゼンの水素をフェニル基4つブロモフェニル基2つで置換した二臭化ヘキサフェニルベンゼン(Br2-HPB)を使用した。Br2-HPBを超高真空中で金基板に蒸着して自己組織化単分子膜を作成し、加熱処理によって脱臭素と重合を誘起してHPBチェーンを合成、その後さらに高温での加熱処理を施して炭素原子48個からなる円盤状ナノグラフェン(ヘキサ-ペリ-ヘキサベンゾコロネン:HBC)がC-C単結合で連なったHBCチェーンを作成した。得られたHBCチェーンは最大30ナノメートル(10億分の1メートル)と十分な長さが得られ、さらに各HBCユニット間が最大15度程度までの折れ曲がり自由度を示した。変形によってチェーンが壊れることがなく、しかもトンネル効果の影響が問題にならないと予想できるほど大きなサイズが得られた点で、HBCチェーンは分子の曲がりと電気伝導特性の計測に適している。 現在、熱振動AFMは大気環境で動作するように構築したため、今後はHBCチェーンを大気環境での計測に導入する手法、または熱振動AFMを真空環境で動作させるための方法を検討する。
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