気相成長シミュレータを機械学習のアプローチで高精度化する技術について研究を進めている。結晶の表面は気相成長の舞台であるため、表面構造を原子レベルでリアリスティックに模擬する必要がある。本研究課題では、高並列化に適した第一原理計算コードRSDFTとベイズ最適化ライブラリをスパコン上で組み合わせることによって大規模表面構造の効率的なサンプリングを実現し、GaN(0001)有機金属気相成長における2種類の表面再構成(Ga吸着構造とH吸着構造)の混合構造の研究を、約2×2nm^2の大規模スーパーセル(従来研究の9倍)で行った。 上述の例では、約469万通りの膨大な数の候補構造(吸着配置)が探索空間に存在する。そこで、まず、構造制約に基づく約49万通りの候補構造からなる部分空間からのサンプリングを実施した。サンプルされた安定構造を調べた結果、ナノスケールの窒化ガリウム表面では、EC則を局所的に満たしながら吸着子間相互作用を緩和するように、2種類の吸着原子が配置されるという特徴が見出された。また、EC則の不完全な満足や、一つの構造において複数のパターンによりEC則の満足判定が可能であるという複数解釈性に基づき、安定化機構に関する一つの仮説が得られた。 上述の仮説をIsing模型で表現してみたところ、データが取得された部分空間のみならず全探索空間に対して十分に定量的な安定性予測が可能であることが、第一原理計算により確認された。その結果、約469万通りの中から最安定構造を得ることができた。さらに、そのIsing模型を用いて分配関数を計算し、平均エネルギー、配置エントロピーを考慮した自由エネルギー、および、平均的な吸着配置を温度依存で得た。これらは気相成長シミュレータを高精度化するために不可欠な熱力学状態量である。以上、提案したアプローチは、広範囲の半導体表面研究の発展に貢献できると期待される。
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