研究課題/領域番号 |
20K15182
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
今井 大地 名城大学, 理工学部, 准教授 (20739057)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 混晶半導体 / 光学定数 / 半導体レーザー |
研究実績の概要 |
本研究では、半導体レーザー(LD)の動作原理上その制御が重要でありながら不明な点の多い、窒化物系混晶半導体のサブギャップ領域における吸収係数を厳密に決める解析手法の確立と、吸収係数の起源の解明に基づく低損失光共振器実現の基盤技術開拓を行う。具体的には、LDにおいて共振器損失源となる禁制帯内の電子状態(バンド端近傍の局在状態や深い準位)に着目し、混晶半導体薄膜における基礎吸収端以下のエネルギー領域(サブギャップ領域)の吸収係数導出、それに対するバンド端近傍およびギャップ内における各電子状態の寄与とそれを引き起こす要因の解明に取り組む。 窒化物系混晶半導体は下地結晶との格子定数差などから厚膜の積層が難しく、そのため吸収係数を見積もる一般的な手法である透過測定ではサブギャップ領域の吸収係数導出が困難であった。本研究ではデバイスグレードの混晶半導体薄膜におけるサブギャップ領域の吸収係数を導出する方法として光熱偏向分光(PDS)法と分光エリプソメトリーを組み合わせる方法を提案した。令和2年度は主にPDS測定系の立ち上げと分光エリプソメトリーによる光学定数解析に取り組んだ。面発光レーザーの分布ブラッグ反射鏡に用いられるAlInN混晶において光学定数解析における最適な誘電関数モデルを検討し、GaN等に用いられる半導体結晶のバンド構造を反映した誘電関数モデルにより、バンド端近傍の光学定数を精度よく見積もることができた。またこれらの試料のPDS測定を実施し、まずはGaN単層膜においてPDS法と分光エリプソメトリーを組み合わせて、サブギャップ領域の吸収係数を見積もった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の初年度到達目標であるPDS測定系の構築および測定は完了し、GaN単層膜においてサブギャップ領域の吸収係数の導出が完了した。今後はAlInN混晶を含めた多層膜での解析を進める予定である。分光エリプソメトリーによる光学定数の解析についてはGaN上に成膜された高品質AlInN結晶における最適な誘電関数モデルの検討を行い、これらのAlInN混晶試料においては従来よく用いられてきたアモルファス半導体の誘電関数モデルよりも、GaN等で用いられる半導体結晶モデルの方が良いフィッティングが得られることがわかった。更にモデル関数において測定困難な真空紫外領域に関わるフィッティングパラメータを減らすことで、バンド端近傍のスペクトル解析精度の向上がみられた。バンド端近傍における光学定数については精度よく導出することができ、これによりサブギャップ領域の吸収係数を定量評価する準備は概ね整ったため、進捗状況は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
AlInN混晶を中心に窒化物系混晶薄膜のサブギャップ領域における吸収係数の定量評価を目指す。これらの混晶はGaNまたはAlN上に成膜されているため、まずは多層膜構造において各層からのPDS信号の分離を試みる。これにより混晶薄膜層のみのPDSスペクトルを抽出し、分光エリプソメトリーの結果と併せてバンド端近傍からサブギャップ領域にかけての吸収係数を精度よく見積もることに取り組む。またサブギャップ領域の吸収係数を決める要因として、バンド端近傍の局在状態およびバンド内の深い準位の影響について、フォトルミネッセンスや励起スペクトルの結果と併せて解析を進める。従来の混晶に代わる構造として評価を進めている秩序混晶構造についてはGaN/InN短周期超格子による秩序GaInN混晶において、光変調反射測定によるバンド構造評価、PDS測定によるサブギャップ領域の吸収係数評価を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症により国内外の会議が延期またはオンライン開催となったため、旅費として計上していた分に残額が生じた。状況を踏まえ、旅費に充当する予定である。
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