これまでの研究で開発した光子数識別器を利用し、本年度はその応用であり、本研究の最終的な目標であった非ガウス型量子状態の生成実験に注力した。 非ガウス型量子状態の生成実験では、波長1545 nmの光波束において、3光子検出によるシュレディンガーの猫状態の生成に世界で初めて成功した。光パラメトリック増幅器をパルスレーザーで励起することで、パルス状のスクイーズド光を生成する。その一部を超伝導転移端センサによって光子数識別測定を行うことでスクイーズド光から光子を引き去り、シュレディンガーの猫状態が生成できる。光子数識別器で何光子検出するかで様々な状態が生成できる。検出光子数が多くなると生成される状態が複雑になるが、実験系のロスなどに大きく影響を受けてしまう。本実験では、様々な部分のロスを減らし、光学系の制御を精密に行う実験技術を確立できた。
研究期間全体を通じて、当初の予定通り光子数識別器の性能向上を行い、それを用いた非ガウス型量子状態の生成までを実行することができた。前半の研究では、これまで単一光子検出器とされてきた超伝導ナノストリップ光子検出器の信号を解析することで、光子数識別器としても使用できることを明らかにした。後半の研究では超伝導ナノストリップ光子検出器ではなく、より高い光子数を測定できる超伝導転移端センサを用いてシュレディンガーの猫状態を生成するという成果を得た。シュレディンガーの猫状態が生成できたという事実も大きなインパクトがあるが、本研究を少し改良すると、量子誤り訂正に不可欠とされているGottesma-Kitaev-Preskill状態の生成にも拡張することができる。つまり、本研究は誤り耐性型量子コンピュータの核になる研究と言うことができる。
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