本研究では、ラマン散乱顕微鏡を用いた生体試料測定において目的に応じた必要最小限のラマンスペクトル情報を探索し、その組織細胞学的な意義付けとラマンイメージング高速化への寄与を目指す。 最終年度は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を利用した多焦点照明光学系の構築と、複数種のヒト甲状腺癌細胞株のラマンスペクトルデータベースを基にそれらの判別に有効なスペクトル情報の選定を行った。ヒト甲状腺癌細胞株のラマンスペクトルデータベースの解析からは、還元型ヘム(主にシトクロムc)と脂質に帰属されるラマンバンドの強度分布がそれぞれの癌細胞株の細胞学的違いを反映することが示唆され、限られたスペクトル情報からそれらの判別が可能であることが示唆された。 研究期間全体におけるその他の主要な研究成果として、ラット脂肪肝モデルの脂肪化早期における組織学的状態の段階的変化が、そのラマンスペクトルにおけるレチノール(肝臓に貯蔵されたビタミンA類)と脂質(肝脂肪化の過程で蓄積される脂肪)に帰属されるラマンバンドの強度バランスから特徴付けられることを見出し、その成果につき論文発表と国内外における学会で報告を行った。HE染色などに代表される従来の病理学的診断法では検出困難であった脂肪化超早期における微小脂肪滴の検出や、脂肪染色では難しかった通常脂肪滴と含レチノール脂肪滴の区別など、ラマン散乱顕微鏡の性能が活かされた組織学的状態の探索を達成した上で、本研究課題の目的であった検出スペクトル情報の限定と得られる生物学的情報を最大化の一例が達成された。
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