研究課題/領域番号 |
20K15196
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 守 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (30793583)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光マニピュレーション / 光圧 / 光発熱 / シミュレーション / 数値流体力学 / 電磁場解析 / レーザー加工 / 光渦 |
研究実績の概要 |
本研究では、光圧と光発熱による流体制御の理論的枠組の構築と、応用に向けた指導原理の獲得を目指し、光によって流体を(A)間接的、もしくは(B)直接的に制御する2通りの方針について、その方法を理論的に探索してきた。 (B)の方針に関して2021年度は、前年度に整備した、光発熱による熱伝導や相変化などを扱えるレーザー加工の分野のシミュレーション手法を駆使して、光渦パルスによる金属の突起形成現象に関して、金属や光源のパラメータによって形成される構造がどのように変化するのか系統的に探索した。結果として、光渦のドーナツ状の強度分布によって誘起される不均一な温度場で生じるマランゴニ効果の寄与により、実験でも報告されている突起構造と同規模のものを同じ時間スケールで形成できることを解明した。特に、溶融金属の粘度や表面張力、また光渦のスポット径などの最適化によって、スポット径よりも遥かに小さく、回折限界を超えた幅の突起構造を形成できる可能性も示した。 また2021年度は(A)の方針についても進展があった。金属ナノ粒子などの光吸収性の粒子を含むことを想定した液体を、光圧と光発熱で駆動する数値計算モデルを構築し、特に、光発熱に伴う液相の相転移と気相の体積膨張により、液体が激しく駆動される状況を評価可能となった。このモデルの応用例として、レーザー誘起前方転写による液滴の打ち上げが議論できる可能性がある。現状で、先行研究の実験で報告されているような、光渦パルス照射による液滴飛翔現象について、構築したモデルで類似した結果を得られており、その動的過程の理解に向けてシミュレーションによる探索を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べた通り、光渦パルスによるレーザー加工の応用研究において進展があった。光渦のように強度分布が特徴的な光源を利用することで、発熱と、溶融金属という流体の運動を制御できる可能性を解明し、光発熱による流体の制御という点で大きな成果が得られた。更に、光源に依存して、回折限界を超えたスケールで構造を制御できる可能性も示したことは、予想外の成果が得られたと言っても過言ではない。今後、光渦の角運動量による光圧が形成される構造にどのような影響を与えるのか、より詳細に検討することで本研究の目的達成に繋がる。 また2021年度は計画通り、分散粒子で生じる光圧・光発熱を用いて間接的に流体を制御するための理論研究において進展があった。数値計算のための計算モデルを構築するだけでなく、レーザー誘起前方転写という応用問題において既に成果を出しつつあり、計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の成果として、主に光発熱による流体の駆動という点で非常に大きな成果が得られた。一方で、本課題では光圧による制御も重要な課題である。特に、レーザー加工やレーザー誘起前方転写の問題において、光渦による光圧がどのような影響を及ぼすのか、更なる検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症への警戒のため、学会がオンラインで開催されるケースが多く、出張費の支出が大幅に少なくなったことが大きな要因である。前年度の反省を踏まえて物品費として利用し研究の実施効率の向上にも努めたが未使用額が生じた。 使用計画として、2022年度には本課題で複数の論文を発表できる予定があり、また現地開催される学会も増えつつある。出版費や出張費などへの利用を増やし、研究成果の発表に努める。
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