本研究の目的は「光圧と光発熱による流体制御の理論的枠組の構築と、応用に向けた指導原理の獲得」である。具体的な研究対象として、光渦を用いたレーザー加工の実験において報告されてきた螺旋状突起構造の形成機構の理解に繋がる成果を得た。数値流体力学と電磁場解析を融合した計算手法を構築し、溶融金属を想定した流体を光圧で駆動する計算モデルにおいて、光渦照射によって螺旋状の構造が形成されることを確認し報告した。更には、光発熱の効果を考慮するために、熱流体力学に基づくレーザー加工の数値計算手法を導入し、光渦照射の下で、マランゴニ効果によって溶融金属がビーム軸中心へと運ばれ、突起状の構造を形成しうることを解明し、学術誌に成果を報告した。 これらの計算手法の汎用性は広く、他の現象への適用可能性も探索した。特に、数値流体力学と電磁場解析を融合した計算手法は、光異性化材料の光誘起変形現象の解析に利用できる。光照射の下で光強度と偏光に依存して表面構造が変形する現象を、光圧による駆動の結果として、過去に報告されてきた実験結果を再現する成果を報告してきた。また、分散液中の光発熱による蒸発が、分散液を上方へと押し上げる現象が知られており、その応用研究が探索されているが、熱流体力学に基づく計算手法によって、その射出過程を評価可能である。いずれも更なる詳細な研究によって、各現象の背景に潜む物理現象や、応用可能性などを解明できると考えている。 このように、幅広く流体として扱える物質を光圧・光発熱で制御するための理論研究を実施してきた。今後も系統的に研究を進めることで、光による物質操作の範囲を拡大し、新奇現象の発見・新分野の開拓に繋がることを期待できる。
|