研究課題/領域番号 |
20K15199
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山下 大喜 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 訪問研究員 (40858099)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノチューブ・グラフェン / フォトニック結晶 / 光物性 / ナノ構造物性 / ナノ物性制御 / ナノマイクロ物理 / シリコンフォトニクス |
研究実績の概要 |
本年度は,単一カーボンナノチューブ(CNT)発光の高効率光取り出しが可能なデバイスの作製とその評価を行った. CNTは基板と接触すると非輻射緩和が大幅に増加することが分かっているため,基板の上に設置した高台の上にCNTを合成する触媒を配置することで,CNTを基板に触れないように架橋させる手法を用いた.この構造で,共振器に結合したCNTからの単一光子放出を実証した.この手法は,直接接触を避けることでCNTの発光強度を維持しているが,高台によって共振器とCNTの距離が200 nm程度空いていることによって,CNTからの発光と共振器との結合が直接集積した場合に比べて弱くなるというデメリットもある.これを解決するためにCNTの光物性への影響が少ない六方晶窒化ホウ素という二次元絶縁体をCNTと共振器の間に挿入することを試みた.この二次元物質の厚さは20 nm程度しかないため,CNT発光の共振器への高効率な結合が期待できる.実際にそのようなデバイスを作製し,共振器に強く結合したCNT発光スペクトルの観測に成功した. また,導波路に結合した空気モードフォトニック結晶ナノビーム共振器を用いて光子の高効率取り出しを実現するために,片側の空気孔の数を減らすことで導波路方向への意図的な光の漏れを導入し,導波路端から共振器に結合した光子を高効率に取り出すことを目指した.有限差分時間領域シミュレーションによる電磁界分布解析を行い,右側の空気孔の数を4つ程度にするとCNTのQ値以上の共振器Q値を維持して,導波路端で90%以上の取り出し効率が得られることがわかった.このようなデバイスを作製し,単一のCNTを導波路に結合したシリコン微小共振器に集積することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は高台スペーサーを用いた架橋CNTデバイスと,六方晶窒化ホウ素スペーサーを用いたCNTデバイスを作製し,どちらの構造でもCNT発光を共振器と結合させることに成功した.特に六方晶窒化ホウ素を用いた手法は研究の計画段階では計画していなかったが,2020年に本研究室でCNTの光物性への影響が少ない二次元材料であるということがわかったため使用を試みた.これによって発光強度を損なうことなく,共振器との光結合を高めることができた.実際に共振器・導波路に結合した単一CNT発光の検出に成功していることからも,順調に研究が進んでいると考える.
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今後の研究の推進方策 |
まず,CNT発光と共振器の高い結合が得られる六方晶窒化ホウ素スペーサーを用いたデバイスの評価を行う.六方晶窒化ホウ素の厚さによって共振器との結合がどのように変化するのかを調べる.膜厚が薄いほど共振器との結合は良くなるが,CNTと基板の距離が近くなることで非輻射緩和が増加する可能性があるため,最適な膜厚条件を明らかにする.次に,高効率に結合が得られるサンプルに対して光子相関測定を行い,単一光子発光を実証することを目標とする.CNTや六方晶窒化ホウ素を所望の共振波長を持つ共振器に集積する際には,最近,当研究室で開発された乾燥スタンプ転写法の利用を試みる.この手法は,化学気相成膜法を用いてSiO2/Si基板上にCNTを成長させ,スタンプを用いてCNTをピックアップしたのち,所望の基板上に転写することができる.この手法を用いて,十分明るいCNTを選択的に共振器に集積し,単一光子性の良いデバイスの作製を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19によって計画していた国際・国内学会が延期またはオンライン開催になったため次年度使用額が生じた.翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画について,学会参加費・旅費,微細加工装置利用料と,光分波器,レンズ,ミラー,フィルタ,偏光子等の光学部品としての使用を計画している.
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