液体クラッディングを用いないチタンサファイア結晶の寄生発振抑制手法は、チタンサファイアレーザーの高平均出力化に向けた重要な要素技術である。波長以下の微細構造には反射防止機能を有するものがあることに着目し、レーザー加工による反射防止微細構造の形成を目指して研究を行った。 チタンサファイア結晶の表面に波長532nmのサブナノ秒レーザーと波長800nmのフェムト秒レーザーを様々なレーザーフルーエンスで複数パルス集光照射し、照射痕の形成条件や照射条件による変化について調べた結果、いずれのレーザーにおいても照射パルス数による加工深さの変化が大きいことが明らかになった。また、サブナノ秒レーザーはチタンサファイアに吸収のある波長であったが、吸収のないフェムト秒レーザー照射の場合に比べて加工閾値フルーエンスが高く、パルス幅の影響が大きいことが明らかになった。一方で、加工深さに関しては同じフルーエンスで比較するとサブナノ秒レーザーの方が数倍深く加工されていた。フェムト秒レーザーを照射した場合、レーザーの偏光に垂直な方向にレーザー波長と同程度の周期間隔を持つ溝状構造が照射痕内部に形成されていた。しかし、溝状構造を照射痕全面に形成することはできず、表面が荒れた領域と混在していた。各レーザー照射条件で得られた照射痕に低出力のチタンサファイアレーザーを照射して透過率を測定した結果、未照射の面に比べて透過率の向上は認められなかった。チタンサファイア結晶についてこれまでにダメージ閾値は調べられていたが、本研究によりレーザー加工特性が初めて明らかになった。
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