安定なラジウム錯体の合成に関する知見を得るため、大環状エーテル部位に新たにピリジンホスホン酸部位を有するアームを2本取り付けた2種類のキレーターを合成し、それぞれのLa錯体とBa錯体の安定性について評価を行なった。 一般にLa錯体とBa錯体の安定性を比較するとLa錯体>Ba錯体である。これはBa2+よりもLa3+が硬い酸だからである。これと同様な錯体の安定性の傾向がピリジンホスホン酸を有するキレーターで見られた。このように、金属イオン(アルカリ土類金属イオンやランタンイオン)と配位子の結合は閉殻系であるため、共有結合の寄与は小さく、静電相互作用の寄与が大きいはずである。 しかし、ホスホン酸エステル部位を持つ錯体の安定性は、La錯体>Ba錯体であるという結果が得られた。これはアーム部分のエステルのアルキル鎖の立体的な反発が、Baよりもイオン半径が小さいLaで強く生じたためと考えられる。 この現象は環状分子に導入したアーム部分の立体的な自由度が低く、鎖状分子よりも2本のアーム同士の立体反発や相互作用が強く働くことに起因していると考えている。このように、環状分子の側鎖同士の分子内相互作用をコントロールすることが、新たなイオンサイズ選択性を持つキレート剤の開発に繋がることを見出した。 今後は本研究で用いた錯体の溶液中の分子構造と錯体の安定性との相関を明らかにし、環状分子の側鎖間の相互作用部位の変更、種々のイオンへの選択性等を系統的に明らかにすることで、ラジウムイオン等の巨大なカチオンを高選択的に捕捉するキレーターの改良を行う。
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