研究実績の概要 |
初年度である2020年度は、白金族元素を含む金属錯体の配位結合の定量化を目的として、白金族錯体の構造モデリング、配位結合を定量的に表す指標であるメスバウアー異性体シフトを用いたベンチマーク研究、分子軌道解析に基づく配位結合の解析を行った。 まず、白金族錯体の構造モデリングでは、イリジウムを中心金属として有する正八面体型及び平面四角形型錯体を選定し、単結晶構造の座標に基づいて初期構造の分子モデリングを行い、密度汎関数法による構造最適化により安定構造探索を行った。連続誘電体近似による溶媒効果の有無による構造の比較を行った結果、溶媒効果を考慮することによって、単結晶構造の結合距離をより正確に再現できることが分かった。 続いて、メスバウアー異性体シフトを用いたベンチマーク研究では、実験値と計算値を比較することによるベンチマークを行った。いくつかの交換相関汎関数を用いて実験値との相関を比較した結果、Hartree-Fock交換割合を50%含むBHandHLYP汎関数が、Irメスバウアー異性体シフトをよく再現することが分かった。 最後に、分子軌道解析に基づく配位結合の解析では、原子価領域における分子軌道中のd電子密度に基づく解析により配位子場分裂を見積った。正八面体型イリジウム(III)錯体[IrL6] (L = Cl-, Br-, SCN-, NH3, CN-)の配位子場分裂の解析した結果、L = Cl-, Br-, SCN-, NH3, CN-の順に増加し、分光化学系列及び報告されているIrメスバウアー異性体シフトの序列に従うことが分かった。 以上より、密度汎関数計算に基づく解析によって、配位結合の強弱を定量的に評価する計算及び解析する方法を得た。
|