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2021 年度 実施状況報告書

日本海東縁のガスチムニー構造を介したヨウ素の濃集評価

研究課題

研究課題/領域番号 20K15216
研究機関東京海洋大学

研究代表者

尾張 聡子  東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (50846350)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードヨウ素 / メタン / ガスチムニー / 海底堆積物 / 日本海 / 東京湾 / 断層 / 間隙水
研究実績の概要

本年度は、深部流体を海底浅部に効率的に運搬する海底下の地質構造「ガスチムニー」での採泥調査を予定していたが、コロナウィルスの蔓延により航海が中止となった。本年度はガスチムニー構造と強い関連を持つ海底下の断層構造に着目し、東京湾で海底堆積物を採取した。東京湾は、地下深部に高濃度のメタン・ヨウ素を胚胎する南関東ガス田の一部に位置すること、海底下の断層を通じて海底深部のメタンガスが海水中へ移動していることから、本研究が対象としていた高いメタン・ヨウ素フラックス環境かつ、効率的な流体の移動経路が発達する日本海のガスチムニー構造と似た地球化学的セッティングを持つ。
今年度は東京湾にて採取した約50地点の堆積物から間隙水を抽出した。間隙水に溶存する主要元素6種類と、ヨウ素・臭素の濃度、堆積物中の全有機炭素、有機炭素中の炭素同位体比を測定した。ヨウ素を除くハロゲン元素(塩化・臭素)は河川による淡水希釈の効果を強く反映し、河口部で低い濃度を示した。ヨウ素濃度は沿岸部で低く、湾の中央部付近において高い傾向を示した。ヨウ素濃は最大で5 uMを示し、海水の10倍以上まで濃縮していることが明らかとなった。一般的に、ガスチムニーや断層等の地質構造の発達しない海域では、海水と接する表層堆積物中の間隙水ヨウ素濃度は、海水と同等のレベル(~0.4 uM)であるが、今回の測定結果から、深部に高濃度のヨウ素を胚胎する海域において、断層がヨウ素の効率的な供給通路としての役割を果たし、海底表層部のヨウ素濃度の上昇に寄与していることが示唆された。一方で、間隙水中のメタン濃度は数~100 uMと、サイト間で濃度差が大きい。100 uM以上のメタン濃度を示すサイトは、南関東ガス田に由来するメタンが断層沿いに上昇している可能性を強く示唆する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

コロナウィルス感染拡大の影響により、当初予定していた日本海での航海が2年連続で中止となったため、ガスチムニー構造上での海底堆積物の採取に遅れが出ている。そのため、今年度は、コロナ状況下においても出港可能な海域(宿泊を伴わない日帰り航海が実施できる海域)である、東京湾にて海底堆積物の試料採取を行った。東京湾内では漁業や船舶交通の事情から、大型船舶での大規模な採泥作業が難しいことから、本学の実習艇ひよどり(19トン)で、東京湾中部から北部にかけて約50か所で人力にて簡易採泥を行った。
東京湾の北部は南関東ガス田の一部に位置し、海底深部に高濃度のメタンやヨウ素を胚胎することが見込まれる。また、本研究が着目するガスチムニー構造の分布は断層等の海底地下構造に強く規制されることが知られており、断層の分布と強い関連がある。このことから、本年度は断層に規制された海底下のヨウ素の移動効率を明かにするため、東京湾の堆積物を対象に、間隙水の地化学分析を行った。分析結果からは断層などの地下構造が効率的にヨウ素を濃縮させている可能性を提示することができた。しかしながら、ガスチムニー構造がヨウ素の濃縮にどれほど寄与しているか、定量的に明らかにする必要があることから、次年度以降、日本海のガスチムニー上にて、試料採取を行う計画である。

今後の研究の推進方策

本研究において、ガスチムニー構造がヨウ素の濃縮にどれほど寄与しているか、定量的に明らかにするには、ガスチムニー構造上において試料採取が必須である。このことより、次年度も日本海に発達するガスチムニー構造上での堆積物試料の採取を試みる。しかしながら、次年度もコロナウィルスの影響により航海が中止になる可能性を鑑み、航海の実施可能性の高い他海域での試料採取や、当初予定していた船舶以外での試料採取も計画する必要がある。
他海域については、本研究の研究対象となるヨウ素のフラックスの高い海域を選定する予定である。
日本海のガスチムニー上での試料採取が実施できた場合、船上にて間隙水を抽出し、主要元素6種類と、ヨウ素・臭素の濃度、ヨウ素の同位体比測定を行う予定である。航海は夏を予定しており、研究成果を順次まとめ、学会での発表、論文化を進める。

次年度使用額が生じた理由

コロナウィルス感染拡大により日本海における採泥航海が実施直前で中止となったため、航海の実施にかかる採泥器の保険代や、船舶運航のための油代、旅費、その他消耗品費などが未使用となっており、次年度使用額が生じている。本来予定していた航海が2年連続でコロナウィルスの影響で中止となっていることから、当初計上した2年間分の必要予算が未使用である。
次年度以降はプロジェクトの延長も視野に入れ、当初予定していた採泥器の保険代、船舶運航のための油代、旅費、その他消耗品費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)

  • [国際共同研究] リンネ大学(スウェーデン)

    • 国名
      スウェーデン
    • 外国機関名
      リンネ大学
  • [雑誌論文] Iodine and bromine distribution in interstitial waters from subduction input sediments2022

    • 著者名/発表者名
      Satoko Owari
    • 雑誌名

      Proceedings of the International Ocean Discovery Program

      巻: - ページ: -

    • 査読あり
  • [学会発表] Extraction methods for chemical speciation of iodine in seawater2022

    • 著者名/発表者名
      Oi Mayu, Satoko Owari
    • 学会等名
      MALT Joint seminar
  • [学会発表] Geochemistry of iodine dissolved in interstitial water of marine surface sediment in Tokyo Bay2022

    • 著者名/発表者名
      Nagisa Suzuki, Satoko Owari
    • 学会等名
      MALT Joint seminar
  • [学会発表] ヒクランギ沈み込み帯におけるガスハイドレートの起源:放射性ヨウ素同位体年代法の適用2021

    • 著者名/発表者名
      尾張聡子、戸丸仁
    • 学会等名
      日本地球化学会

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公開日: 2022-12-28  

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