研究課題/領域番号 |
20K15224
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水野 雄太 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (10846348)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 化学反応動力学 / 相空間幾何学 / 非統計的化学反応 / Lie正準変換摂動論 / Voronoi分割 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,動力学効果を考慮した反応経路図を相空間幾何学と第一原理分子動力学計算に基づき自動作成するプログラムを開発することである.今年度の研究実績を以下に列挙する. (1)Lie正準変換摂動論プログラムの実装:Lie正準変換摂動論は,化学反応系のポテンシャルエネルギー面の鞍点近傍の相空間構造の計算に有用な方法である.これを実行するプログラムは,本研究課題で開発を目指す動力学的反応経路図自動作成プログラムの主要モジュールの一つである. (2)Voronoi分割を用いた化学反応動力学系の相空間構造の効率的計算法の開発:化学反応動力学系の理解に重要であるReactive Islandと呼ばれる相空間構造の数値計算法を開発した.本計算法は,分子動力学計算とVoronoi分割という計算幾何学の手法に基づいている.分子動力学計算から得られた軌道サンプルデータからVoronoi分割により相空間構造の幾何形状を近似し,その近似構造の境界上の点を初期条件とする分子動力学計算により新たな軌道サンプルデータを追加することで,効率的に相空間構造の幾何形状の近似精度を改善することができる.実際,ランダムに初期条件をサンプルする方法よりも,相空間構造の近似精度の改善に重要な軌道データを重点的にサンプルする本手法の方が効率が良く,最大で二乗加速を実現している. (3)動力学効果の存在が指摘されている実在化学反応系に関する予備計算:従来の統計的反応論では実験結果を説明できないと指摘されている実在化学反応系(bicyclo[3.2.0]hept-2-ene → norbornene)における固有反応座標(IRC)経路の計算,主成分分析による重要反応自由度の抽出とそれに基づくエネルギー地形の低次元近似モデルの検討などを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,「(1)Lie正準変換摂動論プログラムの実装」において本研究課題で開発を目指す動力学的反応経路図自動作成プログラムの主要モジュールの一つを実装し,「(2)Voronoi分割を用いた化学反応動力学系の相空間構造の効率的計算法の開発」において第一原理分子動力学計算と相空間幾何学との融合を志向した「計算相空間幾何学」の方法を開発し,「(3)動力学効果の存在が指摘されている実在化学反応系に関する予備計算」において本研究課題で開発するプログラムの性能評価に用いる系に対する準備を行った.特に,(2)の成果は現在論文投稿準備中であり,(3)においては多自由度実在化学反応系を少数自由度でモデル化できる可能性を示唆する結果を得ている.以上から,本研究課題の目標達成に向けて,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
第2年度以降は,(1)量子化学計算に基づくポテンシャルエネルギー面の鞍点近傍を記述する近似多項式の計算プログラムの開発,(2)第一原理分子動力学計算による反応チューブとそのネットワーク構造の計算プログラムの開発,(3)反応チューブのネットワーク構造から動力学的反応経路図を作成するプログラムの開発,(4)実在系の動力学的反応経路図の作成とプログラムの性能評価,という当初計画に加え,(5)主成分分析などを用いた重要反応自由度の抽出とそれに基づく化学反応動力学系の少数自由度近似モデル化法の検討,を行う.新たに追加した研究項目(5)は,今年度得られた成果からその実現可能性が示唆されており,(1)-(3)で開発・実装を進めるプログラムの計算量的困難を克服するためにも重要である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため令和2年度の学会がすべてオンライン化されたので,旅費として計上してあった約30万円が未使用となった.当該未使用助成金は翌年度以降の予算に均等に分配し,当初計画に加えて行う予定の「重要反応自由度の抽出と動力学モデルの少数自由度近似」の研究に関連する書籍購入費や情報収集と成果発表のための学会参加費等として使用する予定である.
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