研究課題/領域番号 |
20K15227
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平松 光太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60783561)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 振動分光法 / 一分子計測 / 蛍光 / 蛍光エンコーディング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,蛍光にエンコードした超高感度分子振動測定法の開発である.特に,申請者らがこれまで取り組んできた超短パルスを用いた時間領域コヒーレントラマン分光法と蛍光計測を融合することによる超高感度な振動分光法の開発を目指し研究を進めている.研究初年度である2020年度は光学系の開発及び原理検証実験を行った.様々な遅延時間を有する超短パルスレーザー対をサンプルへと照射し,発生する蛍光を計測した.パルス間遅延をレゾナントスキャナーを用いて高速に走査し,蛍光計測に時間相関単一光子計数法を用いることで,高感度な時間分解蛍光の計測を実現した.計測した蛍光信号の時間変化をフーリエ変換することで振動スペクトルを取得することが出来る. 原理検証として数種類の深赤-近赤外領域の色素の計測を行い,蛍光エンコーディングによる振動計測に成功した.本手法で得られたスペクトルと既報のラマンスペクトルとの一致を確認したほか,量子化学計算と照らし合わせることで,測定したスペクトルが確かに分子振動を反映していることも確認した.また,濃度依存計測も行い,現状,本手法の検出限界が100 nM程度であることも確認した.これは,測定領域に分子が数個程度存在していることに対応しており,1分子計測への応用も射程圏内に入っている.次年度以降,一分子計測に向けた高感度化,イメージングに向けた光学系の開発,波長変換による適用範囲の拡張などを進めていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である2020年度は光学系の開発及び原理検証実験を行った.フェムト秒レーザーからの出力を2分割し,ポンプ・プローブ光としてサンプルに照射する.ポンプ-プローブ間の遅延を,レゾナントスキャナーを用いた光学系で高速走査(24 kHz)し,各遅延時間での蛍光強度をフォトンカウンティング法によって定量する.高速走査により,レーザー強度の揺らぎや蛍光色素の退色による誤差の影響を最小限に抑え,高感度なFTRS検出を行った.高効率に励起および蛍光検出を行うために,高開口数を持つ対物レンズを用いた検出光学系を開発し,上記装置と融合した.計測した蛍光信号の時間変化をフーリエ変換することで振動スペクトルを取得することが出来る.FTRSで検出できる色素として,光源の発振波長である750 - 850 nm(11764 - 13333 cm-1)では電子状態が励起されないが,分子振動のエネルギー(400 - 1600 cm-1)が加わることによって電子状態が励起されるような分子が望ましいと考えられるため,そのような分子としてローダミン800及びナイルブルー分子を選定し,原理検証を実施した. これらの分子の蛍光エンコーディングによる振動計測に成功した.本手法で得られたスペクトルと既報のラマンスペクトルとの一致を確認したほか,量子化学計算と照らし合わせることで,測定したスペクトルが確かに分子振動を反映していることも確認した.また,濃度依存計測も行い,現状,本手法の検出限界が100 nM程度であることも確認した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降,一分子計測に向けた高感度化,イメージングに向けた光学系の開発,波長変換による適用範囲の拡張などを進めていく.高感度化のために,測定に用いるパルスの波長帯域,分散補償の最適化などを進めていく.また2020年度に計測を実証したローダミン800およびナイルブルー以外の分子に関しても計測を進め,その結果をもとに今後の本計測で用いるタグ分子の開発の指針にもつなげていく.イメージング光学系は,これまでに報告されている1分子イメージング光学系を参考にし,高精度ピエゾ素子によるステージスキャン型の顕微鏡を開発する.上記分子で染色した細胞・組織のイメージングの実証を進めるとともに,1分子の蛍光エンコーディング振動分光計測の実証も進めていく.
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