研究課題/領域番号 |
20K15231
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
土持 崇嗣 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (40763933)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電子状態理論 / 摂動論 / 一重項励起子分裂 / 量子化学 |
研究実績の概要 |
本研究は、一重項励起子における開裂において重要となる励起状態を直接的に計算する新規な量子化学的手法の開発と応用に焦点をおいている。前年度は骨子となるスピン対称性射影演算子を用いた摂動論について、大規模な分子へ適用するために必要な超並列アルゴリズム開発と開殻電子状態への理論拡張を行った。 本年度は、励起状態をゼロ次のオーダーで近似した参照スレーター行列式に対してユニタリをかけることにより、直接的に多電子励起状態へと非変分的に緩和させるアルゴリズムについて検討を行った。開殻一重項となる励起状態を目的として単一のスレーター行列式を軌道緩和させると、よく用いられるBFGS法などの最適化手法ではヘシアンが徐々に非負となり、基底状態に収束してしまうことを確認した。そこで、本年度では最適化手法としてSymmetric Rank-1 (SR-1) 法を用いることにより、ヘシアンが非正定値行列であっても、目的とする近接した鞍点に収束するようなアルゴリズム改良を行った。 一方で、開殻一重項状態は単一のスレーター行列式では近似できないため、本手法を用いたとしてもスピン対称性を破壊した非物理的な励起状態が得られてしまうことが確認された。特に、ユニタリに2電子置換も含めることにより単純な軌道緩和を超えたユニタリ結合クラスタでは、多くの場合一重項より変分的に安定な低スピン三重項状態が得られてしまうことがわかった。 こうした問題について、スピン射影演算子を顕に含めることで求めたいスピン励起状態に帰着することを示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、一重項励起子における開裂において重要となる非断熱励起状態を定性的かつ定量的に新規な低コスト量子化学的手法の開発を目指し、すでに以下の項目について完了している。 第1年度はスピン対称性射影演算子を用いた摂動論について、大規模な分子へ適用するために必要な超並列アルゴリズム開発と開殻電子状態への理論拡張を行った。 第2年度ではスピン射影演算子とSymmetric Rank-1法を組み合わせることで、変分パラメータ超曲面における鞍点である励起状態をスピン混入を防ぎつつ直接的に求めるアルゴリズムに対して開発を行った。これらの成果をまとめることで摂動展開が可能となり、これによって非断熱励起状態の定量的記述とこれの適用による応用研究への発展が期待される。 また、本研究の副産物として、量子コンピュータを用いて摂動展開ではなくユニタリクラスタ展開を非変分的に行った場合についても良好な結果が得られており、量子コンピュータを用いた一重項励起子開裂 への応用が期待できることが本研究で示されている。これらを踏まえ、現在までの研究進捗状況は良好であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、まずアルゴリズムの開発を継続して行う。 具体的にはスピン射影演算子とSymmetric Rank-1法で励起状態を摂動展開し、一般的な有機分子について励起エネルギーの評価を行う。また、複数の非断熱状態を用いて有効ハミルトニアンを作り出し、断熱的な励起状態を計算し、精度の改善をはかる。 また、実際の応用例としてペンタセン複合体を含む様々な有機集合体に対してHamiltonian couplingの計算を行い、速度論の側面から一重項励起子開裂への本手法の有効性を実証する。
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