研究課題/領域番号 |
20K15234
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
浦島 周平 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (30733224)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液-液界面 / ヘテロダイン検出振動和周波発生分光法 / 油水界面 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、有機溶媒-水界面からの振動和周波(VSFG)信号のヘテロダイン検出に取り組んだ。まず、計測を安定化し再現性を得るため、強いVSFG信号を発する参照界面として有機溶媒-水晶界面を用いて、計測セルの最適化を行った。その結果、これまで有機溶媒として水のOH伸縮領域に赤外吸収を持たない重トルエンを用いていたが、むしろ重トルエン中の不純物がOH伸縮振動に吸収を持つことが明らかとなり、これまで信号取得が難しいと考えていた軽トルエンの方が測定に適していることが判明した。そこで軽トルエンを用いて、参照であるトルエン-水晶界面と試料であるトルエン-水界面からのVSFG信号取得を試みたところ、トルエン-水晶界面からは安定して信号が取得できるにもかかわらず、トルエン-水界面からは信号が検出できないという、予想外の問題が現れた。この問題に対し、光の入射角やサンプル界面の高さなどの光学条件を変えながら検証したところ、トルエン-水界面が平坦でなく盛り上がったメニスカス形状をしていることが信号消失の原因であることが確かめられた。 そこで、この問題を解決するため、改めて計測セル形状の最適化を行ったところ、光の照射領域(直径数百マイクロメートル)においては十分に平坦な液-液界面を作り出すことに成功した。このセルを用いてトルエン-水界面からのVSFG信号検出を試みたところ、メニスカス膨らみのために界面の高さこそ精密に規定できないものの、解析に耐えうる強度の信号を検出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までで、本研究課題最大の困難である液-液界面からの信号取得には成功した。しかし、ヘテロダイン検出振動和周波発生(HD-VSFG)分光においては、測定対象(トルエン-水界面)から発生するVSFG信号の位相を正確に決定するために、測定対象と参照(トルエン-水晶界面)とを全く同一の光学条件で計測する必要がある。このためには光が通過するトルエン相の厚みを誤差10 μm以内で揃えなければならないが、現在までこれを実現できていない。問題点の一つは、トルエンをセルに注入する前に水表面の高さを調べて制御しても、トルエンを注入することでメニスカス形状が変化し、界面高さの変動を招いてしまうことにある。現状では繰り返し条件検討により誤差±100 μmまでは揃えることが出来ているが、未だ効率的に計測高さを探索する手法の確立には至っておらず、条件検討に時間を要している。一方、許される高さの誤差が±10 μm程度と比較的大きいため、これはさらなる繰り返し条件検討で突破できる程度の問題ともいえる。 以上の理由につき、やや遅れているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
セルに水を注入する量をコントロールしながら繰り返し条件検討を行い、トルエン-水晶界面(参照)とトルエン-水界面(測定対象)とを完全に同一の光学系でHD-VSFG計測する。このとき、トルエン-水界面の高さを規定する標準として、非共鳴のVSFG信号を利用する。詳細は以下のとおりである。 入射した赤外光にトルエン-水界面にある分子が共鳴しない場合、そのHD-VSFGスペクトル(非線形感受率)は実定数になることが知られている。しかし、参照と試料界面とでトルエン相の厚みが異なる場合、光の位相がずれて検出されるため、非線形感受率の虚部がノンゼロに見えてしまう。これを利用し、水を重水(D2O)に代えたうえでOH伸縮領域(3000-3800 cm-1)の赤外光を導入し、この時発生する非共鳴HD-VSFG信号が実定数になるような界面高さを探索する。これにより“正しい”高さの探索後、改めて軽水-トルエン界面に対してHD-VSFG計測を実施し、界面選択的な振動スペクトルを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、位相まで含めた正しいHD-VSFGスペクトルを与える光学条件の探索に長時間を要してしまったため、次年度使用を行った。一方で、原理的には重水を用いた高さ探索により計測を実現できる段階まで進展しており、今後は計測セルや光学システムに大きな変更の必要はないと予想される。従って、残予算は主に重水やトルエンなどの試薬の購入に充当する。
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