研究実績の概要 |
今年度は、cwレーザー由来の量子もつれ光を用いて蛍光寿命測定を行うという、本研究で提案した新しい原理に基づく蛍光寿命測定法の原理検証実験を行った。 まずは測定装置の開発を行った。光源である量子もつれ光は、266 nmのcwレーザーを非線形結晶に照射することで、パラメトリック下方変換により得た。得られた量子もつれ光は波長が相関した光子対からなっているが、これらをバンドパスフィルターに通すことで波長を532 nmに限定し、また空間分布の違いを利用することでそれぞれの光子対を光子1つずつに分割した。このようにして分割された光子のうち、片方は試料に照射して試料中の分子を光励起することに用い、その結果生じた蛍光の光子を単一光子検出機によって検出した。一方、もう片方の光子はそのまま別の単一光子検出器で検出し、量子もつれ光が発生したタイミングを記録するのに用いた。これら2つの単一光子検出器で光子が検出される時間差を測定することで、蛍光が分子の光励起からどのくらい遅れて発生するか、すなわち蛍光寿命はいくらかを測定することができる。 次に、ローダミン6G溶液を試料として用いることで、実際に蛍光寿命の測定を行った。得られた蛍光減衰曲線はパルスレーザーを用いた従来法に基づく結果とよく一致しており、本研究で新しく開発された手法によって蛍光寿命測定が可能であることが実証された。この測定における時間分解能は0.2ナノ秒と見積もられたが、これは検出器の応答速度で決まった値である。したがって、本研究では大元の光源としてcwレーザーを用いているにも関わらず、パルスレーザーを用いた場合と同等の高い時間分解能で蛍光寿命の測定を行えることが実験的に示された。 本研究により実証された測定原理については、国際特許としてPCT出願した(PCT/JP2021/006681, February 22, 2021)。
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