研究課題/領域番号 |
20K15238
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
奥村 拓馬 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員 (70855030)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 超伝導検出器 / 中性分子検出器 / イオン蓄積リング / 負イオン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、理研で開発した極低温静電型イオン蓄積リングRICEと超伝導転移端マイクロカロリメータ(TES)を組み合わせて汎用的な中性分子検出システムを開発し、それを用いて宇宙環境下における負イオンの光化学反応の直接観測を行うことである。高分解能X線検出器として開発されているTESを中性分子の検出器として利用するのは世界で初の試みであり、検出システムの開発が本研究で最も重要なステップである。本年度は検出システム開発のため、前年度導入した新たな装置の性能テストを行った。 TESは金属が超伝導転移する際の電気抵抗の変化を利用する検出器であり、動作させるためには本体を100 mK以下の極低温に維持する必要がある。X線検出器として使用する際には、検出器前面にアルミニウムの窓を設け、周囲からの熱輻射による赤外線が検出器本体に侵入することを防いでいる。しかしながら、中性分子検出の際はこの窓を取り除く必要があり、検出器本体への熱輻射の流入を防ぐ別の手段が必要である。周囲からの輻射を防ぎながらTESとRICEを接続するため、GM冷凍機と輻射シールドを備えた接続チャンバーを前年度導入した。本年度は接続チャンバーを様々な条件で運転し、TESへどの程度の熱流入があるのか、熱輻射のシミュレーションを併用しながら試験を行った。その結果、赤外線遮蔽用に金属メッシュを何枚か導入することで、窓なしの条件で検出器が存在するステージの温度を100 mK以下まで冷却し、検出器本体を超伝導転移させることに成功した。ただし、今の条件のままでは金属メッシュにより検出器に到達可能な中性分子の数も大きく減少してしまうので、現在、熱輻射のみを効率的に遮蔽する方法を熱シミュレーションにより探索している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、RICEとTESを接続するための接続チャンバーの性能テストを行った。接続チャンバー設計時に考慮していなかった①RICE周囲の300Kの金属壁面からの輻射が反射を通じてTESに流入、②接続チャンバーとTESを設置したチャンバーとの間の接続部からの熱流入が無視できないほど大きい、などの予想外の熱源により当初の予定より冷却テストに時間がかかったが、最終的には検出器を超伝導転移させることに成功し、おおむね予定通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、本年度開発した中性分子検出システムに実際に中性分子を導入し、検出器の動作テストを行う予定である。現在RICEを別の実験で使用しているので、まずRICEとは繋がずに、TESと接続チャンバーのみから構成されるシステムで中性分子検出のテストを行う。イオン源から生成した負イオンのビームを残留ガスと衝突させ、その結果生じた中性分子を本研究で開発した中性分子検出システムに導入する。イオンビームのエネルギーを掃引しながら中性分子を検出し、TES信号のパルス波高の変化から中性分子検出システムの質量分解能を見積もる。また本年度の性能テストの結果を踏まえ、中性分子検出システムの検出効率を向上させるために、輻射による赤外線のみを効果的に遮蔽する方法を開発する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、接続チャンバーの性能テストの結果を踏まえて、本年度に更なる改造を行う予定であった。しかしながら、本年度の性能テストの結果、開発時のシミュレーションでは想定していなかった熱源が存在することが明らかになり、この熱源を特定するのに当初の予定よりも時間がかかったため、本年度中に改造を行うことができなかった。検出器自体は現状のセットアップでもオペレーション可能な状態にあるが、更なる検出効率の向上ため、現在接続チャンバーの改造案をまとめている。次年度には本年度見送った改造を行う予定である。
|