本研究は「炭化水素分子ベアリングの固体内テラヘルツ回転と物性開拓」と題し,固体内における分子の超高速回転とそれによりもたらされる特異な物性や機能を明らかにすることを目指すものである.一般に固体内における分子運動は周囲の分子のとの接触のため大きく制約を受けるが,申請者らが開発した筒状分子とゲスト回転子からなる「分子ベアリング」のシステムではこの問題が解決される.本研究では,従来報告したものよりもさらに高速の回転が可能となる新しい分子ベアリングを開発し,過去に報告例のない「固体内テラヘルツ回転」を実現し,固体材料としての機能・物性を開拓する.本研究は,検討内容を以下の三項目に分け,段階的に遂行する計画であった.すなわち,[項目1] "会合体構築と分子構造" [項目2] "固体内回転運動",[項目3] "固体物性開拓"の三項目である.2021年度には,上記項目2と項目3を主に検討した.前年度に構築・分子構造を解明した分子ベアリングについて,詳細な固体内動的挙動を解明した.筒状分子の内部にアダマンタン回転子を包接させた分子ベアリングを用いて,重水素核の固体NMR分析を行うことにより,固体内での高速等方性回転を証明した.緩和時間測定による詳細な解析の結果,固体内における運動は慣性回転となっていることを明らかとした,さらに,加熱条件下においては固体内での回転数が1テラヘルツにも達する異常な高速運動を実現した.さらに,高速運動に由来する物性の検討を進めている.また回転子のさらなる多様化についても知見を得ている.固体内テラヘルツ回転する分子ベアリングの成果についてはNature Communications誌に報告した.
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