研究実績の概要 |
本研究は、有機分子性固体における分子ダイナミクスを積極的に活用した無水プロトン伝導体を合成し、伝導機構の調査を通して無水有機超プロトン伝導体の物質設計指針を得ることが目的である。 当該年度においては、前年度までに単結晶を得て無水プロトン伝導度およびその異方性を調査した、イミダゾリウム-コハク酸塩(1)イミダゾリウム-リン酸塩の1:1(2)および1:2(3)、および1,2,3-トリアゾリウム-リン酸塩(4)のプロトン伝導機構を調査した。塩1においては、量子化学計算と赤外分光測定によって、単結晶中のイミダゾリウムの秤動運動および酸-塩基間プロトン移動が関与する伝導経路の活性化障壁が、実験的に得られたプロトン伝導度の温度依存性と一致することを明らかにした。 塩2,3のイミダゾリウム分子のC-H結合部をH/D同位体置換した粉末の固体2H核NMR測定により、塩2,3共に結晶中でイミダゾリウムの大きな秤動運動が生じていることが明らかになった。特に塩3では240 Kという低温にも関わらず3次元的な分子ダイナミクスが観測され、これが、本系において約330 Kで10^-3 S/cmを超える、結晶性無水プロトン伝導体では最高の伝導性をもたらしたと明らかにした。 一方、等方的超プロトン伝導性が観測された塩4では、第一原理計算および温度可変単結晶X線構造解析によって、1,2,3-トリアゾリウム分子内のプロトン互変異性がプロトン伝導に深く関与していることを明らかにした。 上記の結果は顕著な分子ダイナミクスがかつてない高プロトン伝導性をもたらすことを示しただけでなく、プロトン互変異性という新たな高伝導性物質の設計指針の可能性を提示する非常に重要な成果である。
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