研究課題/領域番号 |
20K15241
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
信田 尚毅 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 助教 (20839972)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | チオフェン / 電解合成 / 電気化学 / 活性中間体 / 分光電気化学測定 |
研究実績の概要 |
チオフェンは、硫黄含む五員環芳香族化合物であり、有機・高分子系の電子材料設計の中枢をなす骨格である。チオフェン環は一般に電子豊富であるため外圏型電子移動による酸化が容易であり、これによって生じる(ラジカル)カチオン性チオフェンを経由する分子変換や高分子合成が多数報告されてきた。また、このような電子移動過程は、有機ELやクロミック材料など様々な有機材料における重要な素過程である。チオフェンを一電子酸化した場合、一般にカチオンやスピンはπ共役系に非局在化すると考えられており、溶媒や対アニオンといった分子がどのように「配位」し、影響を及ぼすかという知見が系統的に報告された例はない。本研究では、チオフェンの酸化過程と酸化体の物性において、溶媒やアニオンといった分子の硫黄原子への配位が大きな影響を与えているという仮説を検証することを目的とし、さらにこの視点に基づく新たな機能性分子の合成・評価を行う。 本年度は、2,5-ジアリールチオフェンをモデル化合物とし、電気化学的な酸化挙動を、分光電気化学測定と量子化学計算、合成化学的手法を組み合わせて調査した。電解反応に用いる溶媒・塩の組み合わせを変えることで、支持電解質の配位性により、酸化反応の反応電子数が変化することが明らかとなった。特に、多電子移動反応によりこれまでに報告例のない二量化反応が進行し、カチオン性の硫黄を含んだ新規化合物を与えることを見出した。得られたカチオン性化合物は更なる分子変換が可能であり、電気化学的多電子酸化と続く試薬の添加により、多彩な化合物の一挙合成が可能であることを見出した。以上より、本年度は、チオフェン類の電解酸化における周辺分子の配位の影響に関して、仮説実証となる重要なデータを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、研究開始初年度であるが、「チオフェン類の酸化挙動と酸化後の状態に対してアニオンや溶媒の配位はどのような影響を与えるのか」という本研究の中核をなす問いに対し、極めて重要なデータを得ることに成功した。すなわち、電解質アニオンの配位により、2,5-ジアリールチオフェンの酸化における反応電子数が変化することを、実験的に初めて観測することに成功した。さらに、電解質アニオンの配位性を制御し多電子移動を誘起することで、これまでに前例のない分子変換が可能であることを予期せず明らかとした。以上より、本研究は当初の計画以上に進展しているとか評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、2,5-ジアリールチオフェンの酸化における電解質アニオンの配位の影響に関して、評価法を確立し仮説実証となるデータを得ることができた。最終年度となる次年度は、さらに広範なチオフェン類縁体を用い同様の検討を行うことで、初年度に得られた知見の一般性を検証する。さらに、初年度検討により予期せず見出したカチオン性硫黄種を与える二量化反応は、これまでに全く報告例のない分子変換であるため、合成化学的利用に興味が持たれる。そこで、同反応を広範な類縁体で実施し、反応の有用性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により、参加予定であった学会が全て中止、またはオンライン開催となった。そのため、当初計画に比べて旅費が大幅に減ったため、次年度使用額が発生した。これらの予算は、次年度の物品購入費とし、研究の円滑な遂行に利用する。
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