研究実績の概要 |
チオフェンは、硫黄含む五員環芳香族化合物であり、有機・高分子系の電子材料設計の中枢をなす骨格である。チオフェン環は一般に電子豊富であるため外圏型電子移動による酸化が容易であり、これによって生じる(ラジカル)カチオン性チオフェンを経由する分子変換や高分子合成が多数報告されてきた。また、このような電子移動過程は、有機ELやクロミック材料など様々な有機材料における重要な素過程である。チオフェンを一電子酸化した場合、一般にカチオンやスピ ンはπ共役系に非局在化すると考えられており、溶媒や対アニオンといった分子がどのように「配位」し、影響を及ぼすかという知見が系統的に報告された例はない。本研究では、チオフェンの酸化過程と酸化体の物性において、溶媒やアニオンといった分子の硫黄原子への配位が大きな影響を与えているという仮説を検証することを目的とし、さらにこの視点に基づく新たな機能性分子の合成・評価を行う。 前年度は2,5-ジアリールチオフェンを用いて電気化学的手法による酸化反応を検討し、新規カチオン性硫黄種を合成することに成功していた。 2021年度は、ベンゾチオフェン骨格を有する化合物を軸とした反応の探索を行なった。前年度までに確立した分析手法に基づき、電気化学的酸化挙動を、分光電気化学測定と量子化学計算、合成化学的手法を組み合わせて調査した。種々のベンゾチオフェン類を網羅的に探索したところ、特定の位置に官能基を有する2-アリールベンゾチオフェンにおいて、安定なカチオン性硫黄種の発生が円滑に進行することを見出した。本反応は、2,5-ジアリールチオフェン同様、電解反応に用いる溶媒・塩の組み合わせを変えることで、反応電子数が支持電解質の配位性によって変化ことが確認され、チオフェン類の酸化過程における電解質や溶媒といった周辺分子の配位の影響に関する仮説の一般性を示すことができた。
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