研究課題/領域番号 |
20K15244
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横倉 聖也 名古屋大学, 理学研究科, 学振特別研究員(PD) (40834742)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機誘電体 / 光電変換 / 有機エレクトロニクス / 電荷移動錯体 / 強誘電体 |
研究実績の概要 |
本研究では,金属/絶縁体/半導体/絶縁体/金属から構成されるMISIM型光電変換セルの光誘起分極電流を研究した.S層に用いる近赤外吸収材料として電荷移動錯体を候補材料とし,研究を進めた.電荷移動錯体の基底状態は構成するドナー及びアクセプター分子のフロンティア軌道準位と相関がある.本研究では,分子設計によりアクセプターのLUMO準位を系統的に変化させることで,電荷移動錯体の基底状態を中性からイオン性へと連続的に変化させ,基底状態と光応答性の相関を調べた. ドナー分子としてTMB,アクセプター分子として5種類のTCNQ類縁体を用いた.光学測定の結果,5種類のうち2種類が中性,3種類がイオン性であることが確認された.これらの錯体をS層に用い,I層にParyleneC,電極にITOとAgを用いたMISIM型セルを作製した.S層作製の際,PTCDAをテンプレート層として用いることで錯体薄膜中の分子配向を制御をこころみた.薄膜XRD測定により,テンプレート層を用いた薄膜中で構成分子がface-on配向をとることが明らかになった. 得られたデバイスの光過渡電流を測定したところ,イオン性に比べ,中性錯体を用いたデバイスの1000倍もの電流強度を示すことがわかった.AFM測定により,薄膜中の結晶子サイズを比較すると,中性に比べ,イオン性錯体薄膜の結晶性が悪かった.そこで,光過渡電流強度の決定要因を調べるために,蒸着する際の基板温度を高くすることで,結晶子サイズを同等にしたデバイスで比較したが,イオン性錯体の光過渡電流はほとんど増加しなかった.これらの結果から,薄膜中の結晶等の2次的な要因ではなく,中性錯体とイオン性錯体において光応答性が本質的に異なることが明らかになった. また,PTCDAを挿入したface-on配向膜では,未挿入膜に比べ光電流強度と応答速度の両方が改善された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電荷移動錯体の基底状態と光応答性の相関を明らかにした.中性錯体で電流強度,応答速度ともに大きくなることが分かった. PTCDA挿入により,電荷移動錯体の配向制御に成功し,配向膜を用いたMISIMセルにおいて,電流強度と応答速度の両方が改善された. 当初の計画通り,3ゾーン型管状炉を導入し,電荷移動錯体結晶作製や,材料精製が円滑に行える環境を整えた.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,近赤外吸収材料を探索し,デバイスを作製しその光応答性を評価する. 光以外にもデバイスに電圧を印可した際に生じる界面分極制御にも着手する.界面分極が安定化され,電圧遮断時も残留すれば,界面分極による光応答性の劇的な改善が期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で,参加予定の学会等の出張が延期になったため. 2021年度は,現状,対面での開催が予定されているため,その参加費,出張費にあてる予定である.
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