研究課題/領域番号 |
20K15245
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 知弘 九州大学, 理学研究院, 助教 (80866418)
|
研究期間 (年度) |
2022-12-19 – 2025-03-31
|
キーワード | 錯体化学 / 光化学 / ガラス |
研究実績の概要 |
光機能性をもつガラス状化合物として、強発光性をもつ配位高分子ガラスの合成を目指した。本年度は、その目的の達成に向けて、主に(1)光機能性の配位高分子ガラス系の確立を目指した新規銅錯体の合成、および、(2)銅錯体以外の安価な金属錯体の候補として、第一周期遷移金属であるニッケル錯体の励起状態の研究を遂行した。新規銅錯体の合成に関しては、それに用いる新規のNヘテロサイクリックカルベン配位子を合成し、得られた配位子を用いた銅錯体の合成を試みた。得られた銅錯体は非常に不安定で、空気中の水分および酸素で速やかに分解する挙動が確認された。そのためより安定性を増す必要があり、かさ高い置換基を導入するなどの対策を講じる必要があることがわかった。しかしながら、その後のガラス化における低融点化との兼ね合いから、安定性とガラス状態の形成しやすさの二つの要請を満たす置換基と配位子の組み合わせを探索している。他方、ニッケル錯体の励起状態の研究では、強発光性で知られる白金錯体と同型構造を有するニッケル錯体の光励起状態を、フェムト秒パルスレーザーをもちいた過渡吸収分光より研究を進めた。その結果、ニッケル錯体では非常に早く金属中心の励起状態を経て減衰することを明らかにするとともに、その励起状態からの失活過程を抑制する分子設計を見出した。その失活過程をより高度に抑制することで、光励起状態をより長寿命化できれば、新規光機能性ガラス化合物の創出に貢献すると期待できる。以上の研究結果より、目的の光機能性ガラス状化合物に向けて着実に知見を集積した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに例のない強発光性のガラス状配位高分子を目指し、新たな配位子系の探索とそれを用いた銅錯体合成を進めた。その過程で、予期せず不安定な銅錯体として目的物が得られたことから、より金属周辺を強固に覆う配位子設計が必要となることを見出した。その解決に向け着実に新規配位子の合成を進めている。それと同時に、近年、急速に注目があつまる第一周期遷移金属の光励起状態に関して、そのニッケル錯体の励起状態の制御に関して重要な知見を先駆けて得ており、ドイツの化学会誌であるAngewandte Chemie International Editionに投稿論文として報告し、Very Important Paperとして採択されている。バルク状態の化合物を得るうえで、これまでよく研究されている貴金属錯体では、非現実的なコストを要するため、第一周期遷移金属の励起状態の機能開拓は非常に重要な知見となる。目的とする強発光性ガラス状化合物の達成に向けては、依然として配位子の選定に関して試行錯誤の段階ではあるものの、これまでの進捗から得られた知見を用いることで、非常に難しい課題である配位高分子ガラスの強発光化を着実に進めていくことができると考えており、順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、配位子の設計と合成を更に進展させる。よりかさ高い置換基を配位座近傍に与えるとともに対称性が低いNヘテロサイクリックカルベンを系統的に合成する。その配位子を用いて、銅錯体を合成することにより強発光性と安定性を併せ持つ配位高分子の合成へと研究を進展させる。得られた銅錯体は、酸素や空気中の水分に対する安定性を確認したのち、発光特性を順次測定する。得られた安定かつ強発光性の錯体に対し、メルトクエンチ法やボールミルなどによりガラス状態の形成させ、そのガラス状態特有の光機能の開拓を目指す。また、これまで報告したニッケル錯体に加え、d軌道が完全に満たされていない第一周期遷移金属イオンを用いた金属錯体の超高速時間分解分光測定を行うことで、ガラス状配位高分子に適した金属錯体の候補を銅錯体以外にも拡張する研究を同時に遂行する。以上の研究指針をもって、目的とする配位高分子ガラスの光機能の開拓に向け研究を推進する。それらの過程で得られた結果は積極的に国際学会や投稿論文として発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度途中での異動に伴い、研究遂行において変更が生じたため、研究費を次年度に配属される学生に応じて柔軟に対応できるように調整した。次年度使用額分は、本年度と同様に主として研究室の必要備品や合成実験用試薬を購入するために用いる。
|