神経疾患・血管障害を始めとする種々の難治性疾患の機構解明や治療法の開発には、疾患モデル動物における疾患部位を高い時空間分解能で観察する造影技術が不可欠である。この点において、二光子蛍光イメージング(2PM)はサブミクロンオーダーの高い空間分解能をもち、既にマウスやコモンマーモセットといったモデル動物の脳神経・脳血管の観察に利用されている有望な光学技術である。一方、2PMでは、生体深部を撮影する際に、1画像あたりの撮影時間が1秒ほどかかってしまうため(=時間分解能が低い)、ミリ秒スケールで生じる生体内動態の変化を検出することが難しい点に課題があった。 前年度では、ピレンを基盤とする蛍光色素を高密度集積させた「超高輝度蛍光性ナノエマルジョン」を開発することで、マウスの脳海馬領域の血管を1画像当たり0.01秒以下で撮影することに成功した。これにより、蛍光プローブの高輝度化は2PMにおける観察深度の向上や撮影時間の高速化に重要であることを明らかにした。 今年度は、上記のピレン色素を改良し、第二近赤外光での二光子励起が可能な新しいピレン誘導体NIR-LipoPYF5を開発した。同色素を包摂させたナノエマルジョンと、1100 nmで高出力発振する励起レーザー光を併用したマウス脳血管の2PMを実施したところ、脳海馬CA1領域全層の毛細血管を、1画像当たり0.1秒以下で撮影することに成功した。したがって、同色素は今後生命科学研究において有用な材料となることが示唆された。 また、NIR-LipoPYF5を開発する過程で獲得した有機合成手法を活用し、新しいピレン誘導体であるPCを開発した。このPCでヒト皮膚固定化組織を染色し、2PMを実施したところ、皮膚組織を構成する個々の細胞を明瞭に描出できた。したがってPCは、迅速かつ高精度な新しいヒト皮膚疾患の診断技術への応用が期待される。
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