研究課題/領域番号 |
20K15247
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中西 匠 九州大学, 先導物質化学研究所, 学術研究員 (40836425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遷移金属錯体 / プロトン移動 / スピン転移 / 結晶 / 電場応答 |
研究実績の概要 |
プロトン移動とスピン転移が固体中で連動する現象(プロトン結合スピン転移現象、PCST)に基づくスピン状態の電場制御の実現を目的に、固体中における新規プロトン移動現象の開拓を行った。置換基修飾により新規鉄二価錯体[Fe(HL-F)2](AsF6)2 (HL-F = N′-(di(pyridin-2-yl)methylene)-2-fluorobenzohydrazide)を合成し、温度変化に伴うスピン転移挙動およびプロトン移動挙動を調べた。磁性測定の結果、本錯体は熱ヒステリシスを伴う3段階のスピン転移を発現することが明らかとなった。一方、3段階のスピン転移に伴う構造変化を単結晶X線構造解析、赤外分光により調べた結果、スピン転移と連動して分子内プロトン移動を発現し、さらに高スピン錯体と低スピン錯体が1:1で存在する相ではプロトン位置の異なる二種類の錯体が共存していることが確認された。この結果から、本錯体は結晶レベルでの多段階プロトン移動を発現することが明らかとなった。また熱ヒステリシス上の同温度での単結晶構造解析を行った結果、全体の半数の錯体が同温度で異なるプロトン化状態を示すことが確認された。以上の結果から、スピン転移挙動との連動に基づくプロトン化状態の結晶レベルでの多段階変化および熱双安定性という新たなプロトン移動挙動を実現することが出来た。またプロトン移動前後の状態のDFT計算を行った結果、プロトン移動に伴う配位子の電子分布の変化はプロトンドナー/アクセプター部位だけでなく近傍のフルオロフェニル基やピリジン環全体でも起きていることが確認された。さらに、錯体分子中の二つの配位子の一方でのみプロトン移動が発現するケースでは、錯体分子の双極子モーメントの方向、大きさが変化することをDFT計算により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロトン結合スピン転移に基づく新規プロトン移動挙動を実現することが出来たため。プロトン結合スピン転移錯体ではスピン転移現象に特徴的な挙動がプロトン移動挙動に反映されることから、上述の挙動の他にも新規なプロトン移動挙動が実現出来ると期待される。また電場応答性を検討する上で双極子モーメントの大きさ、方向がプロトン移動前後で変化することが重要であったが、その点を本研究におけるDFT計算により確かめることが出来たため。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、置換基や対アニオンを変えることで新たな配位子、錯体を合成し、結晶中における新規プロトン移動挙動の開拓を行う。並行して、新たに得られた錯体に対する電場応答性の検討を行う。
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