本研究では、汎用性の高い疎水性分子を簡便に両親媒性分子へ変換する技術を開発した。親媒性分子は、水と結びつきやすい親水部位と、水をはじき油と結びつきやすい疎水部位とを有する分子であり、古典的な超分子材料として洗剤などに使われる界面活性剤、食品、また化粧品や医療品といった製品に幅広く用いられている。両親媒性分子を合成する最も効率的な方法は、既存の親水性分子と疎水性分子を直接連結させることである。しかしながら、反応剤を用いず混ぜるだけで構築される化学結合は水に対して不安定であり、水中での利用を前提とした両親媒性分子のような材料系に応用できない問題があった。そこで本研究では、シュタウディンガー反応に着目した。シュタウディンガー反応とは、リン化合物とアジド化合物を混合すると、温和な条件で迅速かつ定量的にリン-窒素二重結合である「アザイリド」を与える反応である。即ち本手法は、予め合成した親水性アジ化物と、様々な疎水性リン化合物を混ぜるだけで連結し、簡便に両親媒性分子を構築するものである。得られた両親媒性分子を水に溶かすと、約2ナノメートルの球状の集合体を形成していることが各種分析により明らかとなった。また、得られた両親媒性分子は水中で安定的に存在し、さらに、ナイルレッドなどの疎水性色素分子を水中で取り込み、水溶化させることにも成功した。本研究成果は、熟練の合成技術や高価な試薬を必要としない有機合成手法の新展開であり、様々な機能性材料開発への応用が期待される。
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