研究課題/領域番号 |
20K15256
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鶴巻 英治 東京工業大学, 理学院, 助教 (00772758)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ルビセン / アントラセン / 酸化的環化反応 / ナノカーボン / ナノグラフェン / 芳香族 / 多環式芳香族炭化水素 / 発光 |
研究実績の概要 |
炭素原子の配列様式を組み替えた新しいナノグラフェンの合成を目指して、ルビセンを基本骨格に持つ新規多環式芳香族炭化水素の合成および構造と物性に関する研究を行った。 まず、アントラセンの9,10-位がp-またはm-フェニレンで連結されたアントラセン2量体および3量体をクロスカップリング反応により調製した。これらに対し、酸化的環化反応を行うことで、アントラセンユニットと架橋ベンゼン環の間で5員環化が進行し、分子内に複数のルビセン構造が同時に構築された。NMR、質量分析、単結晶X線測定および量子化学計算により構造決定し、π拡張ルビセンが平面性の高いπ共役構造をもつことを明らかにした。また吸収および蛍光スペクトルや電気化学測定により基礎的な物性を測定することで、ルビセン単量体に比べて、π拡張ルビセンではHOMO-LUMOギャップが大幅に減少しており、効率的にπ共役系が拡張されたことを確認した。特に、アントラセン3量体から構築したπ拡張ルビセンでは、700-850 nmの近赤外領域に吸収、蛍光が確認され、発光の量子収率も中程度維持されているため、安定な近赤外発光色素としての可能性も見出された。 さらに、1つのベンゼン環を3つのルビセン骨格が共有する形のC3対称なプロペラ形分子の合成も行った。2-ブロモアセアントリレン誘導体を既存の合成を参考に合成し、これに対してPd触媒を用いるヘック型三量化反応を行うと、中程度から良好な収率で上述のプロペラ形分子およびその類縁体が得られた。単結晶構造解析により分子内に3つのらせんを持つプロペラ形構造であることを確認し、温度可変NMR解析により、そのプロペラ反転挙動を解析することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、目的とする炭素の配列の異なるナノグラフェンについて、いくつかのモデル分子の合成と構造解析、基礎物性の測定を行う事ができた。分子内に5員環を組み込むことで、6員環のみで構成されるナノグラフェンに比べて、比較的高い安定性を維持したまま近赤外領域まで吸収、発光を長波長化させることができ、さらに広いナノグラフェンへ発展させるための土台が整ってきた。 また合成したモデル分子の中には、近赤外領域に効率的な吸収、発光を示す化合物も見つかっており、当初目的としたナノグラフェンの合成に関する基礎的な知見を得るだけでなく、モデル分子そのものが有機電子材料として応用される可能性も見出された。
|
今後の研究の推進方策 |
炭素原子の配列の異なる新規ナノグラフェンの構築を目的として、一年目のモデル分子の合成研究で得られた知見を活かして、さらに広いπ共役系を持つ化合物の合成を検討する。 一般的な溶液の分光測定、単結晶X線測定に加えて、走査型電子顕微鏡などの測定を行う事で、新規ナノグラフェン類の構造や性質を明らかにし、新しい機能を持つナノカーボン材料への応用を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究は主に有機合成を主体とする実験研究であり、合成試薬、ガラス器具などの消耗品に多くの予算を計上している。2020年度は新型コロナウィルス感染症対策で研究実施日が大幅に制限されたため、上記の消耗品を計上する物品費の支出が抑えられた。この点は本年度の消耗品購入に回す。 また、毎年参加予定の国内学会、国際学会が中止またはオンライン化されたため、旅費の支出が無くなった。 今年度はいくつかの学会が開かれる予定であるため、可能であれば今年度の旅費に当てる他、合成実験の試薬、ガラス器具などの消耗品の購入にも一部を充てる。
|