研究課題/領域番号 |
20K15256
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鶴巻 英治 東京工業大学, 理学院, 助教 (00772758)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ルビセン / 多環式芳香族炭化水素 / アントラセン / 酸化的環化反応 / カップリング反応 / ナノグラフェン / ヘリセン / プロペラキラリティ |
研究実績の概要 |
炭素原子の配列様式を組み替えた新しいナノグラフェンの合成を目指して、ルビセンを基本骨格とする新規多環式芳香族炭化水素の合成および構造と物性に関する研究を進めた。 まず、直線状に分子内に複数のルビセンが縮合された構造を持つ新規ナノグラフェンの合成について、より詳細に検討した。アントラセンの9,10-位がp-フェニレンで連結されたアントラセン3量体に対し、2,3-ジクロロ-4,5-ジシアノ-p-ベンゾキノンおよびトリフルオロメタンスルホン酸を用いる酸化的環化反応では、酸素が挿入されつつ酸化的環化が進行するといった望まぬ副反応が進行することを、副生成物の単離および単結晶X線構造解析により明らかにした。そこで合成戦略を精査したところ、事前に一部の環化反応を施しておく多段階合成により、選択的かつ収率よく目的の新規ナノグラフェンを合成できることを見出した。 また、1-ブロモアセアントリレンに対するPd触媒を用いるヘック型環状三量化反応により合成に成功したC3対称なプロペラ形縮合分子について、詳細な測定や解析を進めた。種々の分光測定や単結晶X線構造解析、量子化学計算により、その初期物性や構造、およびプロペラ反転の動的挙動について明らかにした。これらの結果を論文にまとめた。 また、本研究に関連して、アントラセン縮合化合物に対する酸化反応により、らせん形アントラキノン縮合化合物の合成にも成功し、特異的な歪みの効果について種々の測定および量子化学計算により明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までの研究により得られたルビセンを基本構造に持つ新規ナノグラフェンの合成に関する知見を活かし、さらに新規の多環式芳香族化合物の合成を進めた。アントラセンを基本構造とする様々なパイ共役化合物を出発し、酸化的環化反応やカップリング反応等を適切に用いることで、様々な新規化合物の合成に成功した。また、種々の分光測定やX線回折測定、量子化学計算などの解析により、その基礎物性を明らかにすることができた。これらの成果は学術論文および国内外の学会で詳細を発表する予定であるが、学会延期などの事情でいくつかの成果について発表が遅れている。そのため、研究期間を一年延長し、研究を完了させる必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間延長となる今年度は、遅れている成果発表の準備作業を主に行う。ルビセンを基本構造とするナノグラフェンの合成に関して、成果をまとめるために不足している実験および理論計算のデータを集め、学術論文や学会発表を行う。また、これらの作業に並行して、より大きいナノグラフェンの合成に向けて、合成法や分子設計などの基礎的な研究を進め、次のステップの研究指針を探ることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果を発表する予定であった学会が延期になったため、今年度参加するための旅費を必要とする。また、成果を論文にまとめるに当たり、いくつかの実験および理論計算によるさらなる実験データの収集が必要であり、それに伴う物品費を計上した。
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