研究実績の概要 |
炭素原子の配列様式を組み替えた新しいナノグラフェンの合成を目指して、ルビセンを基本骨格とする新規多環式芳香族炭化水素の合成および構造と物性に関する研究を行った。アントラセンの9,10-位をp-またはm-フェニレンで連結したアントラセンオリゴマーに対し、酸性条件下でキノン系酸化剤を作用させる酸化的環化反応(Scholl反応)を行うことで、分子内に複数のルビセン骨格を含む新規パイ拡張ルビセン化合物の合成に成功した。NMR、質量分析、単結晶X線測定および量子化学計算により構造決定し、平面性の高いπ共役構造をもつことを明らかにした。また、分光および電気化学測定により、ルビセン単量体に比べて、大きく長波長シフトした吸収、および蛍光を示し、狭いHOMO-LUMOギャップを持つことを確認した。特に、アントラセン3量体から構築したπ拡張ルビセンは、700-850 nmの近赤外領域に吸収、蛍光を示し、発光の量子収率も中程度に維持されているため、安定な近赤外発光色素としての可能性も見出された。 また、1つのベンゼン環を3つのルビセン骨格が共有する形のC3対称なプロペラ形分子の合成も行った。2-ブロモアセアントリレン誘導体に対し、Pd触媒を用いるヘック型三量化反応を行うと、中程度から良好な収率で3つのルビセン骨格が縮合したプロペラ形分子が得られた。単結晶構造解析により、分子内に3つのらせんを持つプロペラ形構造であることを確認し、温度可変NMR解析により、そのプロペラ反転挙動を解析することができた。 今年度は、COVID-19の影響で遅れていた学会等での成果発表に向けて、種々の測定や量子化学計算を行うとともに、関連化合物の合成研究を検討した。その結果、本研究で得たアントラセン化合物の合成に関する知見を活かして、アントラセン骨格を含む新規大環状化合物や新規らせん形化合物などの合成を行うことができた。
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