研究課題/領域番号 |
20K15257
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福井 識人 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70823277)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機化学 / 構造有機化学 / π共役分子 / 有機半導体 / 硫黄 / 可溶性前駆体 / 非平面 / 湾曲 |
研究実績の概要 |
湾曲したπ共役分子は三次元的なπ電子の広がりや高い溶解性などの特徴的な性質を示す。これらの特性は機能性有機材料創出の観点から重要であり、特に有機電子材料のような集積状態での利用にとって魅力的である。しかし、機能発現には置換基の導入による電子状態の制御が必要となる。一方、ヘテロ元素を骨格に組み込めば、周辺置換基に頼らずとも電子状態を調節できる。しかし現在、ヘテロ元素含有湾曲π共役分子の設計は「既存の湾曲分子の炭素をヘテロ元素へ置換する」という戦略に依存している。これに対して本研究では、湾曲π共役分子の新たな設計指針の構築を狙い、「平面π共役分子へのヘテロ元素の挿入」という指針を掲げ、この指針に基づき新規機能性分子の創出を行った。 具体的には、当該年度ではペリレンビスイミドという機能性π共役分子に着目し、これに硫黄というヘテロ元素を1つ挿入した分子を創出した。得られた分子は非平面構造を有するため、各種有機溶媒に対して優れた溶解性を示した。また、興味深いことに、この分子は光や熱といった外部刺激に応答し、硫黄を脱離させ、ペリレンビスイミドへ変化した。この特異な反応性を活かせば、n型有機半導体の可溶性前駆体として活用できることが明らかとなった。加えて、代表者は、2つの硫黄元素がペリレンビスイミドに挿入されたV字型分子の創出にも成功している。これらはいずれも外部識者による査読を受け、国際学術誌に掲載されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
硫黄挿入型ペリレンビスイミドの高い溶解性と特異な硫黄脱離反応を活かすことで、可溶性前駆体へと発展させる構想は、新書において提案したものである。当該年度はこの構想の実現化に成功した。また、硫黄を2つ挿入したV字型分子の創出にも成功し、これについては既に国際学術誌に成果を報告している。さらには、申請段階では想定していなかった成果として、ヘテロ元素ではなく炭素を内部に挿入したペリレンビスイミド類縁体の創出にも成功している。この研究については既に学会発表を行なっており、現在論文化を進めている。以上のことから本研究課題は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に創出した硫黄挿入型ペリレンビスイミドの可溶性前駆体としての実用化を目指した検討を進める。具体的には、1)標的分子の大量合成法の確立と2)分子構造と成膜条件の最適化、を実施する。 また、ヘテロ元素という枠に捉われず「元素の挿入」という独自視点の拡張を目指す。具体的には、既に合成を終えている炭素挿入型ペリレンビスイミドに関して、挿入された炭素の効果に由来した特異な物性の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定して国際学会が延期となり、関連する経費で差額が生じた。この差額については、延期された学会への次年度での参加費に充てる予定である。学会が中止となった場合には、消耗品(合成試薬類やガラス機具)の購入費に充てる予定である。
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