研究実績の概要 |
本研究では、合成例が極めて少ない高活性種であるビニリデン高周期類縁体を「分子のかご」に内包することで安定化することを目的とした。昨年度においては、分子のかごとしてカリックス[4]アレーンおよびテトラチアカリックス[4]アレーンを採用し、目的物の原料となるカリックスアレーン-スタンニレンおよびプルンビレン錯体の合成に成功した。カリックスアレーン-テトリレンの系では、中心金属がカリックスアレーンの外側に位置するexo体および内側に位置するendo体の異性体が生成するのに対し、チアカリックスアレーンの系ではそのような異性体は存在せず、exo体のみが単一の生成物として得られることを明らかにした。 最終年度においては、まずこれらのスタンニレン・プルンビレンに対し、塩化スズ(II)および塩化鉛(II)を作用させ、重いビニリデンの前駆体合成を試みた。しかし、目的物の合成には至らず、原料が回収された。この通りカリックスアレーン-テトリレンは我々が思っていた以上に反応性が乏しく、その要因のひとつがカリックスアレーンの立体保護により中心金属が覆われているためであると考えた。そこで次に、カリックスアレーンの部分構造である2,2'-メチレンジフェノール類から誘導される重い二価化学種を合成した。その結果、メチレンジフェノール上の置換基のかさ高さに応じて生成物はモノマーまたはE2O2四員環をもつダイマーとして存在することがわかった。しかし、これらも反応性が乏しく、塩化スズ(II)および塩化鉛(II)との反応は進行しなかった。つまり、酸素二置換のテトリレンは、酸素の影響により求核性・求電子性どちらも著しく低下していることが示唆された。
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